1 鶇巣ツカサと、幼なじみの莉菜

5/8
前へ
/102ページ
次へ
 ツカサには高校二年生になる姉がいる。  その姉ちゃんがつける、鼻の奥がむずむずするきつい香水のにおいでもなく、自然で優しい香りだった。  いつまでもかいでいたい、いい匂いだ。  って、オレ変態かよ!  どうかしている!  ふるふると頭を振り、ツカサはじっと先生の後ろ姿を見つめ立ち尽くしていた。  そう、莉菜の好きとも小坂の好きとも違う、胸の奥がキュッとするような痛み。  これは、いったいなんだろう。  不思議なことに、この感じは先生の前でしか起こらない。 「ツカサくんって、荻久保先生の前だと、すごく素直だよね」  いきなり莉菜に声をかけられ、ツカサは肩を跳ねあげた。  すっかり、隣にいる莉菜の存在を忘れていた。  まったくの素の状態で声をかけられたのと、ずばり言い当てられたことに、ツカサはうろたえる。 「そ、そ、そんなことねえよ!」  口ごもるツカサに、ふーんと、莉菜は唇をとがらせのぞき込むように、じいっとこちらを見る。 「そうかなあ」 「か、帰るぞ!」  ツカサは恥ずかしさを隠すように、大股で歩き出した。 「待ってよ、ツカサくん」  後ろから莉菜も小走りで追いかけてくる。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加