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 ツイている時は、とことんツイている。まさにそう思える日が1日だけあった。  前日の天気予報で当日は雨と聞いていた。普段、晴れている日は自転車で、雨が降っている日はバスと電車を乗り継いでいる。自転車で行くのが断然いいのだが、雨の日に自転車で行くという選択肢はなしだ。ビショ濡れになりたくないからだ。当日は雨の予報だった。 (やれやれ、その日の自転車は諦めるしかない……)  当日の朝、起きて窓を開けたら予報に反して快晴だった。自転車で行きたいが、夜の天気が気になった。朝のラジオで流れた予報によると、夕立の可能性は高いが、夜には止むとの事だった。 (ラッキー! 今のうちだ) 早速自転車で行く支度をして出発した。家を出て、しばらく走ってる内に「こんな事があるのか?」と思う事が続き、驚いた。目的地までは1時間程かかる。道中には信号が何十箇所とあるが、1回も信号に引っかからないのである。この道は何百回と走っているが、こんな事はまずなかった。 (当日晴れてくれただけでもツイてるのに、信号にも引っかからないのはとことんツイてるな〜♪) ウキウキしながらペダルを勢いよく漕いでいた。  そして、ツイてる事はまだ続いた。毎日、道中のコンビニに寄ってコーヒーを買っているのだが、いつもの時間帯は大体混んでいて、並ぶのが日課になっている。この日は何故か誰も並んでおらず、スムーズに買うことができた。 (今日はとことんツイてる日だ! イェイ!)  行列に並ぶストレスを感じずに済んで気分爽快で外へ向かった。  店から外に出ると、いつの間にか、猛烈な雨が降っていた。店の外から何人かが慌ただしく店へ駆けつける様子がちらほらと伺える。1つの傘を相合い傘でさしているカップルも見受けられた。彼氏は左半身ズブぬれ、彼女は右半身ズブぬれの状態である。そして、カップルが店に入った途端に雨が止んだ。 (やっぱり今日はツイてる! これはチャンスだ! 今のうちに!) すぐさま自転車に乗り込んで出発した。今思えば、ここから朝からのツキが逆回転しだした。自転車で出発するや否や、店にいた時よりも酷く降ってきた。今まで全く濡れていなかったが、瞬く間にズブぬれになってしまった。雨に打たれながら走るのは、まるで5人ぐらいから同時にビンタされ続けてるような感覚だ。 そして、追い討ちをかけるような出来事が起こる。遭遇する全ての信号に止められるのだ。道中で息ができないと思う事が多々あった。  雨に打たれ続けながら、ようやく目的地に着いた。ここへ来るまでに猛烈な雨ビンタを8万発は喰らっただろう。建物へ入り、部屋の扉を友人に開けてもらった。友人はこちらを見て第一声でこう発した。 「何で濡れてんの?」 その発言に一瞬苛立ちを覚えたが、耳元を見てそう発言した理由が予想できた。恐らくずっと音楽を聴いていて外の雨に気づかなかったのだろう。後に本人に聞いたら予想は当たっていた。 「『何で』って外見てみなよ!」 そう言って外を指さしたが、 「『見てみなよ!』って何にもないじゃん」 その言葉に驚き、外を眺めたら、雨が見事に止んでいた。  雨ビンタ8万発と能天気な友人からの反撃である。
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