お好み焼き屋

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お好み焼き屋

 ある日、商店街を歩いていた。しばらく散策すると、お好み焼きのいい匂いがしてきた。その匂いを追っていくと2軒のお好み焼き屋があった。どちらもテーブルがある店で、テーブルに鉄板はなく、店主が焼いて持ってくるタイプの店のようだ。 「お腹がすいた。今日はお好み焼きにしよう」  空腹感を感じながら、それぞれの店をチラリと覗いた。  2軒の内1軒は高級感のある新しい店だった。店の看板には看板娘と思われるバーチャルライバーにいそうなイラストキャラが腕を前に伸ばし、両手をパーにしてこちらに向け、満面の笑みを浮かべていた。  もう1軒は重厚感があり、昔からずっと続いていそうな感じの店だった。そのせいか、中はギトギトだった。いかにも伝統を重んじている感じが滲み出ていた。 (さて、どちらに入ろうか……。 情報はこれだけしかない。でも、重厚感の方がいいかもな。こんな高級な店の前で堂々と店を出してるんだ。よほどの自信があるとみた。美味くない訳がない。もう片方の店は女の子キャラが両手を出してるしな。「こっちに来んな」って言ってる気がする……)  そうして、重厚感のある店の方へ入った。店の床は滑る滑る。店主を見つけたが、欠伸をしている。 (早朝から仕込みをしてるんたな……。これで美味くない訳がない) 関心しながら店主に声を掛ける。 「カウンター席いいですか?」 「どうぞ」  歩こうとしたら滑るようにカウンターまで辿りついた。注文する前に先に御手洗いを済ます事にした。御手洗いまでは直線上にあり、少し離れているが、2歩程歩くと後は床を滑るように辿り着いた。ドアノブは左右どちらにも回らず固まったままだ。回さずに引いたらドアは開いたが、中の床はツルツルだった。 用を足して、ノズルを回そうと視点を移すと、大の文字の上から大きく✕と書いてある。 (こんな風に上から目線で書ける✕は大した自信だ。これで美味くない訳がない) カウンターへ滑るように戻ると、足元に犬が2匹いた。席につくと犬は足元から出て、部屋中を走り回っていた。改めて、豚玉と焼きそばを注文する。そして、待っている間の暇つぶしに雑誌を読もうと探した。すると、席のすぐ傍に複数の雑誌が見えるように立て掛けてあった。蛍光灯に長時間晒された独特の色褪せ感のある物ばかり。どれも数年以上前の物であることは間違いないだろう。その中の1冊を手に取り、パラパラと捲っていると、某有名バーチャルライバーが載っており、誰かが吹き出しを書いている。 「不味いわ。豚玉」 (......やっぱりなっ! 美味い訳ないじゃんっ! 壁ギトギト! 床は滑る滑る! トイレのドアノブ壊れてるしっ!) 吹き出しを見て、落胆し、段々と怒りがこみ上げてきた。そして、別のライバーのページにも吹き出しが書いてある。 「焼きそば激不味」 (最悪だ......。どっちも頼んでしまった。だが、不味いとはいっても所詮どちらも粉物だ。ソースが美味ければどうとでもなるだろう) 内心凹みながら、自分自身にそう言い聞かせた。  しばらくして、料理が運ばれてきた。豚玉を食べやすいサイズにカットして食べてみたが、ソースの味しかしない。しかもソースもただ辛いだけだった。 (不味っ! ソースの味しかしない。しかもめっちゃ辛い) そして、焼きそばが運ばれてきて、口にしたが、そばが伸びきってしまっている。 (何これ!? 伸びきってて気持ち悪い。しかも辛い!) 店主に見えぬようにこっそりとお好み焼きのひとかけらを床に落としてみたが、見事に犬達が全然寄って来ない。あまりの辛さで、水を普段以上に飲みながら食べていたが、流石に全部食べきれなかった。 懐からマジックを取り出し、ライバー雑誌に吹き出しを書いた。 「お好みと焼きそば辛いだけ」 渾身の悪意を込めてこっそりと書き、直ぐに会計を済ませた。1500円と言われ、損した気分になった。 店を出て、もう片方の店のイラストキャラを見ると、心の中で吹き出しが出てきた。 「1500円損した?」 お好み焼き屋と看板娘からの反撃である。
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