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病院の匂いが嫌いだと訴えたらアルが不思議そうに目を丸くした。
「病気じゃないし、僕も一緒なら平気でしょ」と明るく笑う。
(……嫌いなのは匂いだけじゃないんだけど)
ナースセンターで挨拶を済ませると病室が並ぶ廊下を進む。
違う場所なのに、父を見舞った風景に似ているような気がする。
「おばあちゃん、大丈夫だよね?」
「マイは心配ですか? おととい僕がお見舞いに行った時にはもうすぐ退院できるって嬉しそうに笑ってました」
(……って、父のときもそう言ってた)
期待して、叶わなくて――最後は望むことをやめていた。
忘れたい嫌な記憶ほどすぐに思い出せるのはなぜだろう。
「大丈夫、マイに会ったらタエちゃんはもっともっと元気になります」
それでも消えない不安は体を起こした祖母の顔を見てようやく解けた。
「おばあちゃん」
弾んだ麻衣の声に応じる祖母の笑顔。
名前を呼んで嬉しそうに手招きするのに速足で近づいた。
「せっかくの夏休みにごめんね。ただの夏風邪よ。みんな大騒ぎするからこんなに大事になっちゃって……」
「タエちゃんは頑張り過ぎです、今はしっかり休んでください」
「寝てるだけなんてつまらないよ。身体を動かしてる方が性に合ってるのに」
嗜めるようなアルの声に豪快に笑う祖母は麻衣の記憶よりも小さく感じる。
「でも……元気そうでよかった」
「年寄りだからって寄ってたかって……私のことを重病人扱いするんだから。本当に大丈夫だからね。麻衣の顔を見たからすぐに元気になるよ」
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