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事の始まりは一週間前。
高校生活初めての夏休みがついに始まった。
連日開催の蝉フェスは今日も絶好調。
窓枠で切り取られた青い海に浮かぶのは真っ白なソフトクリーム。
「ねぇ、麻衣。あなた一人旅に行ってみない?」
食後のデザートと一緒にセンチメンタルなワードを提供してきたのは母。
「一人旅?」
「今年はお母さんも仕事が忙しいし、夏休みにどこにも出かけないのってどうなのかなって思って」
しんみりとつぶやいて母は仏壇の方へ視線を投げた。
写真立てには一人娘の小学校入学を喜ぶ父の顔。長患いの末に旅立った子煩悩な父との記憶は時間とともにかすみ始めている。
「別に……暑い中を無理に出かけなくたっていいわよ」
母が忙しいのは今に始まったことではないし、人混みに混ざって出かけるのは苦手だ。
「あのね、麻衣にお願いがあるの」
つやつやのブドウをつまみ上げながら二つ返事の麻衣に母は声を潜めた。
「実はね――」
重大な秘密を暴露するような顔で、今回の任務を告げた。
長い、長ーい話の要点をかいつまんで説明すると――目的は二つ。
体調を崩した祖母の見舞いと母の実家の様子を見てくること。
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