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今年、めでたく米寿を迎える祖母が体調を崩して入院したと聞かされたのは梅雨明け間近のことだった。
夏休みに一人旅というセンチメンタルなワードを盛り付けて――母にまんまと乗せられてしまった気がするが、今さら後悔しても仕様がない。
(要するに孫をダシにおばあちゃんを説得するつもりなんでしょ)
怠惰に一日を過ごす麻衣に白羽の矢が突き刺っただけとも思えなくもない。
電車に揺られてたどり着いたのは母の実家の最寄り駅。
マッチ箱のような電車を見送って目指すゴールは駅前の商店街を抜けてゆるい坂道を上った先にある小さな古書店。
店といっても実は商売をしていない。
祖父の膨大な蔵書を処分するために開いた――訪れた客に希望する本を無償で譲渡することを目的としている店なのだ。
――言葉は人類が用いる最も効き目のある薬なんですって。
祖父からの受け売りの言葉に祖母は目を細めた。
――だからこの本も必要とされる人に大切にしてもらいたい。
(あの店がなくなるのはさみしいけど、離れて暮らすのは心配だし……)
狭い店内に立ち並ぶ本棚。無造作に積み重ねられた本。
図書館とは違う古い本の匂いが好きだった。
(そういえばあの絵本、どこに仕舞ったんだっけ)
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