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小さなころに読み聞かせしてもらった燕と王子様が出てくる絵本。
綺麗な絵が気に入ったのに残念ながら話は好きにはなれなかった。
――ぽつ。
「ん?」
麻衣のサンダルを狙い撃ちするように落ちた雨粒が物思いにふけっていた麻衣の意識を引き戻す。
――ぽつ、ぽつ……っ
空から水の礫を投げ落とすように軒を叩いて、地面と麻衣も叩く。
「やだ……降って来た……っ!」
駆けだす麻衣をあっという間にびしょ濡れにする驟雨は足元や建物を白く煙らせる。
「もう……っ、最悪っ」
赤い円筒形のポストを過ぎれば、目的地はすぐ近く。
着替えを押し込んだスーツケースを引きずりながら流れる水を踏んで坂をかけあがり、見覚えのある軒先に駆け込んだ。
「もー、やだ。びっしょ、びしょ」
斜めに見上げた風に揺れる手書きの看板――かろうじて読み取れる文字は『古』と『は』。初めての人にはなんという店なのか分からないだろう。
ここが麻衣の目的地――古書ことのは。
前髪から鼻先に伝う雫を手の甲で拭ってポケットの中をまさぐった。
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