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柔らかなタオルを差し出して小さな子供のように頬を赤らめて笑う。
(ちょと変わってるけど……悪い人じゃなさそう?)
古い紙の匂いに柔らかなコーヒーの香り。濡れた髪をタオルでぬぐいながら小上がりで作業をする青年の様子をうかがう。
「あなたは――」
青年を誰何する声を途中でひっこめて質問を変えた。
「ここで働いてるんですか?」
「いえ、僕の本当の仕事は中学校で英語を教えることです。ここはお手伝い。大事な本を欲しい人に譲るお手伝いをしてるんです」
ついでのようにアヤシイ者ではないと念押ししてアルバート・ケイン――アルと呼んでほしいと――名乗った。
慣れた仕草でマグカップの代わりの湯呑を引っ張り出すと、お盆に乗せてコーヒーを注ぐ。
「ええっと、どこかで会ったことが……ええっと、そうだ写真! タエちゃんに見せてもらったことが――」
「孫です」
アルの声に警戒を解かない声を重ねる。
眉を寄せる麻衣に「写真を見せてもらいました」と嬉しそうに言葉重ねてタオルを手に突っ立ったままの麻衣を手招きしてコーヒーを勧める。
「この町に来てタエちゃんにたくさん、たくさんお世話になりました」
「はあ……そうなんですか」
嬉しそうにうなずくアルに返事を濁して小上がりに腰を落とす。
固い態度は祖母とは知り合いでも麻衣とは初対面なのだから仕様がない。
「タエちゃんは僕の日本のママです。困ってた僕を助けてくれて……。だから今度は僕がありがとうをお返しする番なんです」
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