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麻衣がお盆に乗ったコーヒーに手を伸ばした――刹那。
窓ガラスが震えて前触れもなく店の明かりが落ちた。
「は……え?」
暗転する店内に驚くと間髪入れずに青白い閃光が走る。
静電気の走るような音、鳴り響いたのは窓ガラスを飛び跳ねさせて腹の底を震わす雷鳴。
「――――っ!」
声にならない悲鳴を上げて両手で耳をふさぐがすべては防げない――目の前で生木を裂くような音と立て続けに走る閃光に背中を丸めて身を固くする。
驚く近づくアルを気にする余裕などなかった。
「大丈夫ですか?」
アルが呼びかけて肩を揺する。
答えるように薄く目を開けた視界を閃光が青白く焼いて、悲鳴を上げてその腕に縋りついた。
内臓を震わす重低音は記憶の底にある暗い思い出を呼び起こす。
「いや……っ」
「大丈夫……大丈夫」
雷鳴と入れ替わりに耳に届く優しい声。
「くわばら、くわばら。これは雷避けのおまじないです」
震える麻衣の身体を両手で包み込まれて素直に胸にほおを押し当てた。
幾度も繰り返す――低くやさしいおまじないの声。
湿った麻衣の頭を幼子をあやすように撫でる――母とは違う大きな手。
ひと撫でごとに麻衣の不安や強張りを解いていくようだ。
「――もう、大丈夫ですよ」
ため息のような声に我に返ってまぶたを開く。
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