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「こういう曲歌うんだ、意外」
流れてきたイントロと江崎さんのつぶやきに、思考が中断する。オフィスカジュアルの彼女がスナックを持っているのも、なかなかのギャップではあるが。
とはいえこの選曲は。
「これって確か、失恋の?」
俺はスナックを手に取りつつ尋ねる。
「そうそう」
江崎さんがポリポリと答える。
「でも、考えてみれば、私達もある意味『お別れ』ですよね」
そう言いながら、メイも細長いスナックを取る。確かに、と俺。
本来なら、きっと一生会うことのなかった四人。だが、俺達はそれぞれ、心に取り返しのつかない深い傷を負って、ここに集まることになった。オブラートに包んだ言い方をすれば、そう、「お別れ」のためだ。
俺達三人はボリボリと音を立てつつ、金さんが熱唱する失恋ソングに耳を傾けた。モニターに表示される歌詞が、ところどころ今の自分の気持ちとリンクして、切ない感情が込み上げてくる。
『同じ明日が来るって信じてた』
『涙なんて流してあげない』
『これは勝利のサヨナラ』
「……って金さん、もしかして泣いてる?」
俺がギョッとして茶髪の青年を見ると、彼は今度こそはっきり「グスン」と鼻をすすった。
「だって……今日でさよならなんですよ? こんなのナシっすよ」
「金さん……」
「分かります。どうしてこんなことになってしまったんでしょう……」
メイが憂鬱そうに言って、スナック菓子をソースにディップした。俺も次の一本をつまむ。
「本当、人生って残酷だよな」
曲の間奏が終わり再びAメロになったが、歌が再開する気配はなかった。歌っていた当人を含めて、誰もそれを気にしていない。
ダンッ、と金さんがこぶしでテーブルを叩いた。マイクを構える。
「何でだよ……ハイPちゃん!!」
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