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「え? そっち?」
俺の中の感傷的な気分が吹っ飛んだ。
「ハイPちゃんは俺の女神様なんすよ、ロットさん。配達の仕事ん時も、いっつもフロントガラスのとこに置いてて。なのに……ッ」
「金さんはハイPちゃんガチ勢だったんですね」
メイはスナックをディップしつつ冷静に言った。俺もボリボリともう一本。
「というかメイさん。さっきから何つけてるの?」
「こっちがわさびタルタルで、こっちはハニーケチャップです。おいしいですよ?」
「ここにも別のガチ勢がいたよ」
タッパーで手作りソースを持参する人を俺は初めて見た。
「そのハイPちゃんなんだけど、またつぶやき更新したみたいよ?」
これ、と江崎さんがスマホをテーブルに置いたので、みんながそれに注目した。そこに書いてあったのは。
《【あと2時間】
思い出の場所でハイPOーズ♪寂しい😢》
短いコメントと共に、写真がアップされている。星マークのついたシルクハット風の帽子をかぶった女の子、ハイPの着ぐるみが、両手を広げてポーズを取っていた。背景には食品工場の製造ラインのような場所。
「ハイPちゃん……写真保存しないと」
ソワソワする金さんは無視して、俺はスナック菓子の新たな箱を開けた。
「本当に終わっちゃうんだな」
ザッと中身を出す。細長いスナック、ハイパーポテトが先ほどと同じように紙皿を埋め尽くした。
「さ、とにかく食べましょう。今度はブラックペッパー味ですよ」
「はぁ。私、ハイポなしで人事の仕事やっていける自信ないな……」
「しばらくはストックで凌げると思いますけど、私も同じくです。金さんは違うみたいですけど」
「俺だってハイポ好きっすよ! 仲間外れにしないでください」
四人は各々ハイパーポテトを持った。イメージキャラクターのハイPでお馴染み、アルビー社のハイパーポテトは、あと2時間で生産が終了する。その現実を一人で受け止めることができないファンが、ここに集った訳だ。
「初のオフ会がこんな形になっちゃったけど、これからもネットでしょうもない話とかしませんか?」
「もちろんっす」
「一周忌のオフ会もしますか?」
「一周忌ってメイちゃん……」
カラオケルームに忍び笑いが広がった。悲しいけど、今日みんなで集まれてよかった。俺は満たされた気持ちでコショウのきいたスナックをかじった。
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