1人が本棚に入れています
本棚に追加
とある地方都市のカラオケ店にて――。
「次、誰か歌う?」
流行の曲を適当に歌い終えた二十代後半の男、すなわち俺は、個室のテーブルを囲む他の三人を見回した。ライトのお陰で見た目だけは明るかったが、流れる空気は重かった。
「私はパス。別にカラオケしに来た訳じゃないから」
ブラウスを着た長髪の女性、江崎さんが、ニコリと断る。俺はマイクを持った手をパタンとソファに下ろした。
「まぁそうなんですけどね。でも、せっかくなら楽しい日にしたいじゃないですか。最後なんだから」
「む……」
「あの、俺歌っていいすか?」
そう言ったのは、ツンツンした茶髪の男性、金さんだ。黒のプリントTシャツといい、自分とは全く違うタイプに思えるが、こうしてこの場にいるのだから分からないものである。
「どうぞどうぞ。何時間でも歌って」
「いやエグいっす」
マイクを金さんに託すと、俺はテーブル中央の紙皿から7、8センチほどの細長いスナック菓子を一本取った。このカラオケ店は飲食物の持ち込みがOKとなっている。だからテーブルの上にはお菓子の小箱が堂々と転がっていた。
曲探しに真剣な金さん、スマートフォンをぼうっと眺める江崎さん。あと一人は。
「ロットさん、歌お上手なんですね」
花柄ワンピースのメイに目を向けるや否や、彼女の方から話しかけてきた。ほぼ無表情だ。俺は苦笑した。
「ハハ、ありがとメイさん。風呂場で歌ってるからかな」
「そういう人、リアルにいるんですね」
小さく目を見開かれた。年下の女子にそんな反応をされるとちょっと傷つく。俺はスナックをボリボリと食べた。
ただでさえ、気分が沈んでいるというのに。
ここにいる四人は、ネット上でたまたま知り合っただけの赤の他人だ。SNSで多少のやり取りはしていたが、実際に顔を合わせるのは今日が初めてだった。俺が声をかけた。
ちなみにロット、メイというのはSNSで使っているHN(ハンドルネーム)で、金さんはその略称。江崎さんは希望により本名で呼んでいる。
集まった俺達はドラッグストアで必要なものを買い、予約してあったこのカラオケ店にやって来た。目的はもちろん――。
最初のコメントを投稿しよう!