おかしなお別れ

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 とある地方都市のカラオケ店にて――。 「次、誰か歌う?」  流行の曲を適当に歌い終えた二十代後半の男、すなわち俺は、個室のテーブルを囲む他の三人を見回した。ライトのお陰で見た目だけは明るかったが、流れる空気は重かった。 「私はパス。別にカラオケしに来た訳じゃないから」  ブラウスを着た長髪の女性、江崎(えざき)さんが、ニコリと断る。俺はマイクを持った手をパタンとソファに下ろした。 「まぁそうなんですけどね。でも、せっかくなら楽しい日にしたいじゃないですか。最後なんだから」 「む……」 「あの、俺歌っていいすか?」  そう言ったのは、ツンツンした茶髪の男性、(きん)さんだ。黒のプリントTシャツといい、自分とは全く違うタイプに思えるが、こうしてこの場にいるのだから分からないものである。 「どうぞどうぞ。何時間でも歌って」 「いやエグいっす」  マイクを金さんに託すと、俺はテーブル中央の紙皿から7、8センチほどの細長いスナック菓子を一本取った。このカラオケ店は飲食物の持ち込みがOKとなっている。だからテーブルの上にはお菓子の小箱が堂々と転がっていた。  曲探しに真剣な金さん、スマートフォンをぼうっと眺める江崎さん。あと一人は。 「ロットさん、歌お上手なんですね」  花柄ワンピースのメイに目を向けるや否や、彼女の方から話しかけてきた。ほぼ無表情だ。俺は苦笑した。 「ハハ、ありがとメイさん。風呂場で歌ってるからかな」 「そういう人、リアルにいるんですね」  小さく目を見開かれた。年下の女子にそんな反応をされるとちょっと傷つく。俺はスナックをボリボリと食べた。  ただでさえ、気分が沈んでいるというのに。  ここにいる四人は、ネット上でたまたま知り合っただけの赤の他人だ。SNSで多少のやり取りはしていたが、実際に顔を合わせるのは今日が初めてだった。俺が声をかけた。  ちなみにロット、メイというのはSNSで使っているHN(ハンドルネーム)で、金さんはその略称。江崎さんは希望により本名で呼んでいる。  集まった俺達はドラッグストアで必要なものを買い、予約してあったこのカラオケ店にやって来た。目的はもちろん――。  
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