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潤沢に潤った場所を掻き混ぜられ、グッチュグッチュといやらしい音がする。
毎日私がささやかな生活を送っている空間が、まるでまったく別の人の部屋になった気がした。
煙草の匂いが籠もって、シングルベッドがギシギシ軋んで、自分のものと思えない声で甘ったるく喘ぐ。
ズコズコと乱暴に犯されても、たっぷりほぐされたので痛いと思わなかった。
それどころか、最奥を突き上げられても、抜き差しされて雁首で膣壁を引っ掻かれ、私は言葉を忘れたように喘ぎまくる。
「っあぁあああっ! 好いの……っ、好い……っ、ぁっ、あぁあっ……っ!」
首を振りたくり、シーツを渾身の力で握る私は、無意識にへこへこと腰を動かして自ら快楽を求めていた。
すぐに大きな波が訪れ、私は派手に潮を噴いて絶頂する。
けれどポチくんは許してくれず、本気で泣き、我を忘れるまで私を犯した。
ダメンズに引っ掛かってばかりの私は、ベッドインする事はあっても快楽というものをよく知らずにいた。
付き合っている彼氏とエッチした時は、秘部を指で激しく擦られて痛く、舐められてもよく分からなかった。
挿入されても「苦しい」と思うだけで、突き上げられた振動で生理的な声が漏れるだけ。
けれど彼氏の気持ちを推し量って「気持ちいい」と演技をしていた。
それが、ポチくんとのセックスによって、すべてが塗り替えられた。
――こんな〝気持ちいい〟を知らない。
――私が今まで体験していたセックスは何だったんだろう?
同時に、私を支配した顔をして「良かっただろう?」と言っていた彼氏が、とてもちっぽけな存在に思えた。
**
「……どうしよう……」
土曜日の十時、私は隣ですやすや眠っているポチくんを見て、途方に暮れていた。
完全にやらかしてしまった。
路地裏に座り込んでいたのが女の子であっても、私は家に連れ帰った。
悪い言い方をすれば、犬猫を拾うような気持ちでポチくんを連れ帰ってしまった。
……いや、犬猫と言えば命の責任が生じるし、厳密にはニュアンスが違うけれど。
ボーッとしていると、スマホの通知音がしてメッセージが入った。
彼氏からだ。
【美幸、昨日はちゃんと帰ったのか? 亜子ちゃんに確認したら、一人で帰ったって言ってたけど、ちゃんと帰れた? なんで『帰宅しました』って連絡くれないの?】
立て続けに送られてくるメッセージを見て、私は息をつく。
私は今二十四歳で、付き合っている彼氏――孝夫くんは二十七歳だ。
同じ会社の別の部署の人で、ランチタイムで会社近くのカフェにいた時に声を掛けられた。
彼が言うには、入社当初から私を見ていて、気になっていたそうだ。
ありがたい話だけれど、私は目立つタイプでないので不思議でならない。
趣味は一人カラオケと旅行。
自炊は少しこだわるけど、外食はお金がかかるから、それほどこだわらない。
外見も社会人女性として最低限の身だしなみ、メイクはする。
でも流行のファッションを追うタイプではなく、さらなる美を求める事はない。
スマホゲームを無課金で遊び、あとはサブスクタイプの音楽や読書を楽しむ。
会社での服装も、何の変哲もないオフィスカジュアルに、ダークトーンの髪を一本縛りにしているだけ。
客観的に見て〝とても普通〟だ。
他にももっと、明るくて愛想のいい女性や、見た目に気を遣っている人、趣味の話をしたらディープに語り合えそうな人はいる。
私はゲームで言えば、デフォルト装備のプレイヤーだ。
――なんで私なんだろう?
そう思ったけれど、去年孝夫くんに告白されて、流れで付き合っている。
「付き合ったら好きになれるかも」と思ったけれど、そう簡単ではなかった。
現在でも私は、特に彼が好きじゃない。
ただ、甘えられると「しょうがないな」と要求に応えたくなる。
これが亜子に「ダメンズホイホイ」と呼ばれる理由だと分かっているけれど、そういう性格だから仕方がない。
『ご飯作って。美幸の飯うまい』
『シャツのボタン取れちゃった』
『甘えさせてよ。耳かきして』
日常的にはそう言って、ベッドでは急に強気になる。
『気持ちいいだろ? 俺が一番だろ? 他の男なんて目じゃないもんな?』
『美幸の体を知ってるのは俺だけ。美幸が気持ちいい所もぜーんぶ知ってる』
そう言って、あまり気持ちよくないセックスをしたあと、私のGカップの胸が気に入っているのか、そこに顔を埋めて眠る。
そんな孝夫くんを見ていて、胸に湧き起こる感情は一つだ。
――この人、私がいないと何もできないんだろうな。
デート時は孝夫くんがご馳走してくれて、イベント日でもプレゼントもマメにしてくれる。
理想の彼氏に思えるけれど、私は彼をやはり好きになりきれずにいた。
だってプレゼントを受け取って『ありがとう、大切にするね』と言っても、あとから何度もプレゼントの話題をして、使っているか、今も感謝しているか言わせたがるからだ。
感謝はしているけれど、少し重い。
言葉の端々に、『驕って〝やった〟』と恩着せがましく言われるのも、本当はあまり好きじゃない。
そういう彼だから、ポチくんと致してしまったあとにメッセージがきて、溜め息しか出ない。
(あぁ、怒られるだろうな。面倒くさい)
思うと同時に、こうも思った。
(これで『別れる』って言われたら、それでいいかな)
私も大概、最低だ。
どうやって彼に返事をしようか迷っていた時、後ろからヌッと腕が伸びてきてスマホを取り上げた。
「あっ……」
振り向くと、いつの間にか起きたポチくんだ。
「なーに? こいつ。彼氏? うっわ、ウケる。モラじゃん」
ずっと私が抱えていたモヤモヤを、ポチくんは一刀両断する。
「付き合ってんの?」
尋ねられ、私は改めて彼のほうを向く。
……明るいところで見ると、凄い美形だ。
金髪で軽薄っぽい印象が強かったけど、キリッとした眉毛や涼やかな目元、彫りの深さは俳優やモデルみたいと言っても頷ける。
近くで見ると、肌も綺麗だ。
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