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丸テーブルを囲んで、学生時代の同級生と、久しぶりに飲んでいる。
大学の近くにあるパブで集まったのだが、当時は、毎日のように安い酒を飲んでは、この場所で、恋愛論を語ったものだ。
みんなも就職して、少し落ち着いたようで、声を掛けたら、すぐに4人が集まった。
5年ぶりのお店は、相変わらず、安いウイスキーを片手に熱弁を振るう汗臭い学生で、賑わっている。
「やっぱり、ここのハンバーグは、最高だよね。ほら、こうやって、肉を押しても肉汁の一滴も出やしない。」
そういって、コウジは、ハンバーグに、フォークの背を、ギュッと押し付けた。
「なんせ、安い肉だからね。でも、これが肉っていうものだよ。ほんと、あの霜降っていうやつは、肉じゃないよ。きっと、脂になりそうなものを牛に食わせて、なんでも、マッサージもしてるらしい。そんな肉って、自然じゃないよね。言うならば、人間が無理して作った人造肉って言う方が正解だよ。」
解説者の様に答えたタロウは、学生時代から、落ち着いた雰囲気がある。
「人造牛肉マン参上ーーー!!!」
「バカヤロ、人造牛肉に、足、生えてるのかよ。」
「そりゃ、生えてるでしょ。きっと、変身も出来る筈だよ。人造牛肉、ヘンシーン!」
シンジと、カズヤは、いつもバカなことを言っては、笑っている。
「俺は、人造牛肉マンより、人造牛肉レディーが、いいな。うっふーん。人造牛肉レディーよーん。なんて、ミニスカート履いてるんだ。ムフフ、それって、どうだい。」
コウジが、普段言わない冗談を言いだしたら、すこし酔っぱらってきた証拠だ。
それにしても、久しぶりに会ったのに、これだけ気を許して飲めるのは、やっぱり大学時代の友達である。
「お前えは、どうなんだよ。彼女出来たのか。」
コウジが、タクミに、話しかける。
「いや、いないよ。あーあ、どこかに可愛い子いないかなあ。」
そんなことを言いながらも、さっきから奇妙な感じなのである。
タロウが、いないのである。
いや、正確に言うなら、タロウの席に、知らないやつが座っている。
「あのさ。タロウって、どこに行ったんだ。」
タクミが言うと、全員が、顔を見合わせて、タクミに言った。
「タロウって、誰だよ。」
「いやいや、さっきから、一緒に飲んでるでしょ。そのタロウがいないじゃん。」
「お前、大丈夫か?どこにタロウなんてやつがいるんだよ。気持ち悪いことをいうやつだなあ。」
タクミは、この状況に理解が出来ないでいた。
今日、飲み始めた時のことを思い出しても、ほら、あそこにタロウがいたじゃないか。
というより、あのタロウの席に座っているのは、一体誰なんだ。
タクミは、左隣に座っているカズヤに、耳打ちして聞いてみた。
「あのさ。あのタロウの席に座っているやつは、誰なんだ?」
カズヤは、びっくりしたようだが、その場の雰囲気を壊しちゃいけないと思ったのか、小声で、タクミに耳打ちをした。
「何を言ってるんだ。タクヤじゃないか。」
「タ・ク・ヤ、、、。」
思い出せない。
「大丈夫か。お前、最近、疲れてるんじゃないのか。仕事のストレスか何かか。」
そのタクヤが言った。
「いや、、、そうなのかな。」
そう答えたけれども、いや、あんた、一体誰なんだ。
「そういえば、試験の前になったら、お腹が痛いって、よくトイレに駆け込んでたよな。昔から、ストレスに弱かったんだよな。」
タクヤが、続ける。
いや、違う。
それは、俺じゃない。
タクミは、試験の前にトイレに駆け込むなんてことは、1度もしたことがないと思った。
それなら、タクヤは、誰と俺とを間違えているのだ。
「そうそう、そうだったよな。」
「思い出したら、今でも笑えるよ。ほら、いかにもお腹痛いですみたいに、両手でお腹を押さえてトイレに走ってたもんね。あははは。」
シンジもカズヤも、同調して笑っているが、それは俺じゃないって。
それよりも、今、さらに、奇妙なことが起きてるじゃないか。
コウジがいない。
いや、コウジが、知らないやつに入れ替わっている。
髪の毛をチョンマゲのように後ろで結わいて、コウジとは、似ても似つかないオシャレな男である。
一体、どうなってるんだ。
カズヤに、また、耳打ちで聞いた。
「おい。コウジが知らない男に入れ替わってるよ。」
すると、カズヤは、目を丸くして、小声で言う。
「今日の、お前、どうかしてるよ。ヒロのこと言ってるのか。っていうか、コウジって誰なんだよ。」
「、、、うん。いや、もういいよ。」
成る程、あれは、ヒロという人間か。
しかし、あんなやつ、同級生にいたら、絶対に覚えてるはずだ。
ヒロ、ヒロ、ヒロ、、、、やっぱり、覚えていない。
「あのさ、ヒロって、4回生の時、部活、何やってたっけ。」
タクミにしてみれば、ちょっと、賭けに出た話を振ってみた。
「何言ってるんだ。同じ軽音楽部だったじゃないか。まさか、覚えてないのか。いや、お前、大丈夫なんだよな。これ、同級生だから言うけどさ、1度、医者に診てもらった方が良いかもだよ。ほら、若年性何とかってこともあるしさ。」
コウジがいた席に座っているヒロが、心配そうに言った。
「若年性認知症!」
シンジが、嬉しそうに、人差し指を立てて、叫んだ。
「おいおい。俺が、折角、若年性のあと、気を遣って、何とかって、言葉をぼやかして言ってるのに、お前って、ストレートだなあ。」
「いや、冗談だろう。あははは。」
そんな会話の最中も、タクミは、今日、この店に来た時からの記憶を遡って考えていた。
俺の、左には、カズヤがいる。
うん、そうだ、それは正解だ。
そして、その左隣に、シンジがいる。
うん、いるよね。
そして、その左隣に、タロウがいたはずなんだ。
思い出して見ると、そう、確かにタクミの記憶の中では、タロウがいた。
でも、今目の前にいるのは、タクヤというやつだ。
そして、その左隣、詰まり、俺の右隣りには、コウジがいたはずなんだ。
ほら、ハンバーグの肉汁の話をしていたじゃないか。
そのコウジは、今はいなくて、そこにヒロが座っている。
彼は、俺と同じ軽音楽部だったというが、俺は、軽音楽部には入ってはいなかった。
2人の人間が、知らない間に入れ替わるってことがあるのだろうか。
いや、ある訳ない。
しかも、俺は、2人を知らないし、でも、2人は、タクミを知っているふうなのである。
というか、その知っている記憶も、事実ではない記憶である。
タクミは、何か、別の次元の世界に迷い込んだような気持ちになっていた。
これは、現実なのだろうか。
或いは、飲み過ぎて幻覚をみているのだろうか。
いや、現実だ。
どう考えたって、目の前のグラスは実在しているし、目の前の友達は、知っている、知らない、を考えに入れなければ、物体として存在している。
タロウも、コウジも、実際に、この場にいたのも、それは実在していたに違いない。
でも、入れ替わった、タクヤとヒロという人間もまた、今、ここに実在している。
ヒロの言うように、ストレスで、どうかしちゃたのだろうか。
「あははは。『ヒロの言うように』だなんて、すっかり、コウジが始めからいなくて、ヒロがいたということを受け入れているじゃないか。」
タクミは、自分でも可笑しくなってきて、笑ってしまった。
「おい。どうしたんだ。急に笑い出して。」
そう言ったカズヤを見て、ギョッとなった。
カズヤもシンジも、、、いない。
「カズヤとシンジは?」
「おい。だから、カズヤとシンジって、誰なんだよ。俺は、ジュン、覚えてるよな。」
「それで、俺は、アキラって、解る?覚えてくれてるよな、なあ、ケンジ。」
知らない。
お前たち、誰なんだ。
いや、その前に、奇妙なことを言ったよな。
俺の事を、ケンジって呼ばなかったか。
「あのさ、、、、ケンジって?」
そうタクミが聞いた瞬間、「私は誰?ここはどこ?」と、カズヤの席にいるジュンという男が、ふざけてみせたが、誰も笑ってはいない。
「ケンジって、誰みたいなこと言ってるとしたら、それ本気か。」
「大丈夫なのか。どうなんだ。」
みんなが心配して、口々にタクミであるケンジに話しかける。
「あの、俺、タクミなんだけど。」
「何言ってるんだ。お前、ケンジじゃないか。」
「いやいや、さっきから、何かおかしいなと思ってたんだけど、あなたたち、俺の事を人違いしているみたいだね。俺は、タクミっていうんだ。だから、ケンジじゃない。」
そう言って、持っている運転免許所を見せた。
「こんなことしちゃ、ダメだろう。いくら、みんなを笑わせたいからって、免許証を偽造するの違法行為だよ。」
「いやいやいや。偽造なんてしてないし。ほら、本物だろう。」
「だから、違法行為はよせって。ほら、こんなの見つからないうちに捨てろ。」
場にいる4人が、タクミを責め立てる。
「解った。ほら、一旦、落ち着こうよ。いいか。ケンジ。1度、学生時代の事を思い出してみようよ。」
そう切り出したのは、冷静なタロウの入れ替わりのタクヤだ。
冷静なところは、同じだけれど、まったく別人なのではある。
「ケンジは、俺たちと同級生。いいか、ここは、解るよな。」
「あ、うん。そうなのかな。」
タクヤは、そう答えるしか、この状況では許して貰えないと思って、あやふやな答えをした。
「そうなのかなって、、、まあいい。それで、ケンジは、軽音楽部に入っていて、4回生の時にヒロと同じだった。そこはいいな。」
「ああ、うん。」
「ほら、お前、ケイコちゃんのサックスのマウスピースを、ケイコちゃんがいないときに、匂いを嗅いで喜んでたじゃないか。それが、バレて、ケイコちゃんに平手打ちされた。ほら、それ覚えてるよな。」
そんなバカな。
俺は、そんなハレンチなことをする男じゃない。
「何だよ。匂い嗅いで終わりかよ。そこで、マウスピース口にくわえなかったんだ。」
「おしいなあ。間接キッスの失敗。ザンネーン。」
アキラとジュンという男も、軽いいい加減さは、シンジとカズヤと似ているんだな。
「そうだ。学食では、ケンジは、いつもカレーに醤油を掛けてただろう。それで、ソースを掛ける俺をバカにしてたよね。お前は日本人かって。そう言ったら、いつも俺が、ケンジに返してたよね。なんて、返してたか覚えてるか。」
タクヤが聞いた。
だから、そんな事実はないんだって。
「いや、覚えてないよ。でも、お前は、日本人なのに、なんでカレー喰ってるんだって。」
「そうそう。ちゃんと覚えてるじゃないか。」
普通は、話を聞いたら、そんなことだろうと推測できるでしょ。
「夏になると、ケンジの岡山のお母さんから桃が届いてただろう。あれ、美味しかったなあ。あの味は、忘れられないんだよね。」
「そうなんだ。」
というか、俺の実家は、岡山じゃない。新潟だ。
「どうだ。思い出してきたか。っていうか、そのお前自身が思い込んでいる、自分は、タクミだったっけ?いつから、自分は、タクミだっていう思い込みが始まったんだ。」
だから、俺は、タクミなんだよ。
ケンジなんかじゃない。
「いつからなんだろう、、、。」
しまった。
また、いい加減な返事をしてしまった。
これじゃ、この泥沼から抜け出すことはできなくなってしまう。
何かの理由を付けて、この場は、早めに離れて、家に帰ることにしよう。
何かが狂っている。
しかし、俺が、ケンジじゃないってことは、この4人がいうケンジって言う人間は、他に実在しているのだろうか。
俺と、そっくりなケンジと言う人間が、どこかにいるのか。
それにしても、不思議である。
始めに、このテーブルにいた、タロウとコウジとシンジとカズヤ、この4人は、どこに行ってしまったのだろう。
いや、目の前の4人が言うように、始めからいなかったのだろうか。
それなら、知らない4人のテーブルに座っている俺は、どういうシチュエーションになるのだろうか。
始めの4人はいなくて、今目の目の前には、知らない男が4人いる。
どちらが実在しているかと言ったら、この状況では、目の前の4人が実在していると答えるしかない。
ということは、その実在している4人が、この俺がケンジだと言うのなら、俺は、本当は、ケンジなのだろうか。
タクミは、自分の存在が不安に思えて来た。
タクミは、自分自身、今ここに、タクミとして存在していると信じている。
でも、タクミ以外の人間が、それを否定したなら、その否定を覆すのは、極めて困難であることに、今、気が付いた。
目の前の4人が、お前は、ケンジだと断言したら、もうそれを否定することはできないのである。
その4人が、もっと増えて、周りにいる社会の全員が、タクミの事をケンジだと証言したなら、もう、完全に、タクミと言う人間は消えてしまって、ケンジと言う人間が出来上がってしまう。
今、この場で起きていることは、そういうことだろう。
詰まり、自分と言う存在は、自分が決めるのではなくて、他人が決めているということなんだ。
他人が、タクミの事をケンジだと言えばケンジだし、軽音楽部だったって言えば、軽音楽部にいたことになるし。
或いは、他人が、タクミは人殺しだと言えば、人殺しになるのかもしれない。
極端な話、タクミなんて、この世に存在しないって、まわりのみんなが証言すれば、一瞬にして、この場で、タクミは消滅してしまうのである。
ここに物体として存在していても、誰も見向きもしないし、気も付かない、存在しないものとなる。
そんなことを考えていたら急に怖くなってきた。
まだ、ケンジとしてでも存在していられる方が、よっぽどマシだ。
とはいうものの、もう帰りたい。
よし、帰ろうと思った時に、可愛い女性が現れた。
「よう。遅かったね。」
「うん。ごめん。仕事が長引いちゃって。」
「ほら。ケンジ。まさか、シズカの事は忘れたって言わないよな。」
シズカ、、、やっぱり、知らない。
「あ、うん。」
「あ、うん。って。そっけない返事だな。お前が、一方的にふったシズカちゃんだよ。ああ、シズカちゃんね、今日、こいつ何か変なんだぜ。自分の事が解らないみたいなんだ。」
「えっ。大丈夫ですか?ケ・ン・ジ、、、さん。ケンジさんですよね。」
「あ、うん。大丈夫。」
そう答えたけれども、知らない。
知らないけれども、何か、惹かれるものがあるな。
いや、実際に付き合っていたりして、なんてことは無いか。
だって、知らないもの。
とはいうものの、可愛いね、なんとも。
「ほら。いっそのこと、今から、ふたり付き合ったらどうなのよ。もうあれから時間も立ってるし、もう一度、ふたりでやり直したらどうなの。」
タクヤが、そう言った。
すると、シズカは、顔を赤らめて、「恥ずかしいよ。っていうか、あたし、ケンジさんにフラれたのよ。」
「おい。お前も、彼女いないって言ってたよな。もう一度、付き合ってみろよ。そうだ。明日、会う約束をしろよ。」
変な展開になってきたぞ。
とはいうものの、シズカちゃんという子も、タクミの好きなタイプだし、このまま、ケンジっていうことで、付き合うのも悪くはないじゃないか。
「お前、シズカちゃんと、明日、会うよな。」
「ああ、そうするよ。」
無理矢理、タクヤに会う約束をさせられた。
させられたのではあるが、嬉しくもある。
それまでは、帰りたいという思いしかなかったが、シズカさんという女性が現れてから、急にこの場が楽しいものと変わっていった。
そして、1時間ほど飲んで、お開きとなった。
〈3か月後〉
それからのケンジと、シズカは、自然な流れで付き合うようになっていた。
ケンジは、こんなに幸せな時間が来るとは思ってもいなかった。
そして、ケンジとして生きることに喜びを感じていた。
「ここの紅茶は、高級な葉を使ってるらしいよ。どこか知らないけど、スゴイお茶らしいのよ。」
少し汗ばむ季節の駅の近くの喫茶店のテラスにいた。
「でも、紅茶は、普通の紅茶が一番好きだな。ほら、黄色い箱に入った、ティーバッグのやつ。」
「ああ。子供のころは、あれだったよね。」
「そう。あれね。」
そんな他愛のない話が心地良い。
シズカは、あははと笑った後に、ちょっと真剣な顔になって、「タ、、、。」何かを言いだそうとした。
「どうしたの?何か言いだしかけたけど。」
「何でもないの。」
「気になるよ。言ってみてよ。」
「うん。ちょっとね、別に、どうでもいいことなんだけれど、ケンジさんね、あたしの高校時代の同級生に似てるなって思ったの。ただ、それだけ。」
「高校時代の同級生?どんな人なの?」
「うん。同じクラスで、ちょっと憧れてたんだけれど、中島タクミって言ったかな。」
それを聞いて、椅子から転げ落ちそうになるぐらいに驚いた。
「中島、、、タクミ、、、。」
「うん。ただ、それだけの話。」
「ちょ、ちょっと待って、実は、それ俺の本当の名前なんだ。いや、これには事情があってね。というか、説明させて欲しいんだ。誤解しないで欲しい。ワザと、名前を偽ってたんじゃないってこと。君を好きなのは、本当の気持ちなんだ。そこだけは、言いたいよ。」
すると、シズカも、そうとう驚いたようで、ただ、声には出さず、何度か頷いた。
「っていうか、そういえば、俺も何か思い出しそうだよ。同じクラス。そういえば、シズカちゃんも、俺の同じクラスの女の子に似ているかも。ちょっと、可愛いなと思ってたんだよね。確か、保科、、、さんだっけな、そう、保科ケイコちゃんだ。雰囲気が似てる気がする。」
そういうと、シズカは、わっと泣きそうな顔になって、「ごめんなさい。それ、あたしの本当の名前なの。あたしも、名前を偽ってたわ。でも、ワザとじゃないの。信じて。」
その後、タクミと、ケイコは、名前が変わってしまった事、というか、人間自体が、変わってしまったことの経緯を、ふたりで話して、確認し合った。
「そうか。すべての始まりは、あの飲み会だったんだね。それで、どうしよう。俺たち。」
「どうしようって、そんなの。あたし、あなたがタクミさんでも、ケンジさんでも、どっていでもいい。」
「そうだよね。名前なんて関係ない。俺も、シズカが好きだ。だから、このまま俺と一緒にいて欲しい。」
「うん。分った。」
それは、そうだろう。
愛に、名前は必要ない。
「それはいいとして。あの4人とは、どうする?」
「どうしよう。あの人たちの中には、本当のあたしたちのタクミもケイコも存在しないのよね。」
「だよね。俺たちが、本当のタクミとケイコに戻ったら、あの人たち、どうなっちゃうんだろうね。消えちゃうのかな。というか、始めにいた本当の俺の友達の4人は、今、どこで、どうしているのだろうか。」
「、、、、考えても解んないよね。」
「っていうか、あの4人も、一緒にいたら、それなりに楽しいし。まあ、俺たちも、そこまで名前にこだわってもいないしさ、暫くは、ケンジとシズカで行ってみますか。」
「あははは。そうだね。また、本当のあたしたちに戻りたくなったら、その時に、考えればいいわよね。」
「じゃ、これからもよろしく。」
「こちらこそ。」
「やっぱり、高級な紅茶は、美味しいね。」
「そうだね。でも、やっぱり、黄色いティーバッグが好きなんだよね。」
少し蒸し暑い今日のような日は、アイスティーが、美味しい。
しかし、あの4人の友達は、本当に、タクヤであり、ヒロであり、アキラで、ジュンであるのだろうか。
或いは、彼らもまた、他の誰かに、タクヤであり、ヒロであり、アキラで、ジュンでと、決められてしまっているのかもしれない。
自分では証明できない自分の実在を、社会にいる大勢の他者によって違う存在にされてしまっているのだろうか。
本当の自分ではない、誰かを演じて生きているのだろうか。
彼らは、一体、誰だったんだろうか。
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