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理玖が本気で恋をすると相手を束縛したくなるのは、不安になるからなのだ。理玖は物心つく前に両親を亡くし、親戚の家で寂しく育ったと、本人から聞いたことがあった。大学生になり、この八百屋の近くで一人暮らしを始めて、春の両親や祖父母のおせっかいを家族みたいだととても喜んだ。理玖は、人が思っていることはまったくわからないと考えており、おせっかいくらいがちょうどいいと感じていた。相手を好きになればなるほど、相手の気持ちがわからず不安になり、常に自分の目の前にいて好きだと言ってほしいと考えるのだった。
そして、実は相手が自分をそれほど想っていないとわかると、拍子抜けするほどあっさりと関係を断ち切ってしまう。おそらく、自分を落ち込ませないための防衛手段なのだろう。
春は、そんな理玖が感情の波に翻弄されてつらい思いをするのが可哀そうで、いつでも何でも話せる妹であろうと心がけていた。それなのに、昨日は素っ気なくしてしまったのだ。
居ても立っても居られなくなった春は、部屋を飛び出した。
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