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春は事務所の前にいた。数時間前の勢いはすっかりなくして、事務所の中の様子を伺うような仕草をみせては、逃げ出そうと方向転換するという行動を繰り返していた。
そんな春の様子が中から見えていたのか、突然事務所のドアが開いて、勇人が出てきた。
とっさに逃走体制に入る春の腕をすばやく捕まえた勇人は、あきれたように言った。
「結局来たのか。おまえ、どれだけ自意識過剰なんだよ」
これだから、この人は苦手だ。春は、つくづくそう思った。勇人が事務所に来てから、遊びに来るな、学校に行けといちいち言われるので、気軽に行けなくなってしまったのだ。とはいえ、結局、ほぼ毎日通っていたが。
「別にわたしがどうにかできるとか思っているわけじゃなくて」
「じゃあ何しに来たんだよ」
「優佳さんに来てもらおうと思って、さっき会いに行ってきたんだけど……」
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