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春が事務所に入ると、スタッフたちがいまだどうにもできずにいた。
「すぐ来てくれるかと思ったのに、ずいぶん遅かったね」
「優佳さんのところに行ってきたので……」
「おお、さすが春ちゃん。で、優佳さんを連れてきたの?」
春の背後に、期待を込めた視線を送るスタッフ。しかし、入ってきたのは、踏まれた足の痛みがようやく治まった勇人だった。
「ううん」
「じゃ、優佳さんからなにか伝言でも?」
すると春とスタッフの話を聞いていたのか、厨房のドアが静かに開いて、理玖が外に出てきた。
「やっと出てきたぁ!」
泣き出さんばかりに喜ぶスタッフたち。
しかし、理玖の表情は硬い。
「優佳はなんて言ってたの?」
勇人は正直に教えるのが本人にとってもいいことだと言っていたが、理玖が悲しむことがわかっていて、言えるわけがない。
「春?」
これまで見たことがない不機嫌で冷たい態度の理玖に、春は大声で泣いて逃げ出したくなった。
「さっきそこで聞いたけど、優佳さん、どうして結婚なんかしたのかって、後悔してたって」
「後悔って、そこまでは……」
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