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春はぎょっとして勇人をにらんだが、勇人は「おまえのために言ってやったぞ」とでも言わんばかりに恩着せがましい視線を返してきた。
「春、本当に彼女がそう言ったの?」
春はごくりと唾を飲み込んだ。理玖の目を見たら、嘘なんかつけない。
「……後悔してるとまでは言ってないけど、概ねそのとおり、かな」
理玖は腰からエプロンをとり、乱暴にデスクに投げつけた。
春はいたたまれなくて、身をすくませた。
しかし、スタッフたちの方を向いた理玖は悲しそうでも苦しそうでも、不機嫌そうでもなく、ただ無表情だった。
「今日の仕事なんだっけ? 番組の撮影?」
「そ、そうです」
「少し遅れたけど、まだ何とかなるでしょ」
どうなることかとハラハラしていたスタッフたちは、何はともあれ理玖が仕事に前向きになったので、小さくガッツポーズを作って喜んだ。
「帰ってきたら離婚届を書くから、用紙をもらってきておいて」
そして、理玖は、何事もなかったかのように出かける準備を始めた。
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