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勇人は、理玖のたっての願いで一流企業を辞め、数か月前に事務所に入ったスタッフだった。そのせいか、勇人は理玖にも口うるさく注文をつけるが、理玖はいつも甘んじて受け入れている。
「いまは理玖くんを探す方が先でしょ」
「おまえは事務所の人間じゃないだろ。とっとと学校に行け」
「なにそれ、赤の他人に命令される覚えはない!」
隼人に食ってかかる春を、ほかのスタッフたちが「まあまあ」となだめていると、事務所のドアがバンと勢いよく開いた。
春たちが驚いて入口を見ると、満面の笑みをたたえた理玖が立っていた。
「どこに行ってたんですか!?」
「役所」
目鼻立ちのはっきりした背の高い美女が理玖の隣に寄り添うように立った。現在の彼女の鈴木優佳だった。
「おれたち、結婚してきた!」
うれしそうに宣言する理玖を見て、優佳も幸せそうに微笑んだ。
春はもちろん、スタッフたちも寝耳に水だった。
「え? え?」
「聞いてないよ。理玖、ちゃんと説明しろ」
理玖は、仕事中でもプライベートでも変わらない、やんわりした調子で言った。
「急にそういう話になってさ。ね?」
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