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スタッフたちがすっかり祝福ムードになったので、ひと安心した理玖だったが、春がさっきから何も言わないことが気になった。
「春は祝福してくれないの?」
「あ、うん、結婚おめでとう」
「元気ないな、どうしたの? あ、もしかしてお腹すいてる? 何か作ろうか」
早速腕まくりをして厨房に向かう理玖を、スタッフたちが押しとどめる。
「だから、打ち合わせ!」
「なら、おれ抜きでやってきてよ。春を元気にしてからじゃないと、行けないよ」
勇人が仕方ないという顔で口を開いた。
「あのね、この人は、お腹がすいているわけじゃなくて……」
「わたし、学校に行かなきゃ。じゃあね!」
春は、あわてた様子で勇人を思いっきり突き飛ばし、事務所を飛び出して行った。
「……結構、元気なのかな?」
春の渾身の体当たりに息が苦しそうな勇人を気の毒そうに見て、理玖が言った。
学校帰りの春が、考え事をしながらとぼとぼと歩いていた。
地元で人気の商店街で、この時間帯もかなりにぎやかなのだが、春だけが異なる次元にいるようだった。
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