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理玖の爆弾報告から数日が経っていたが、あれ以来事務所に行っていない。それまでは毎日のように通っていたのに。
商店街の中でもひときわ活気がある八百屋の前まで来ると、無言のまま、店の奥へ入って行った。
春に気づいた店主が声をかけた。
「おかえり、春! どうした、まだ元気ないのか。奥におやつあるぞ!」
「いらない。子供じゃないんで!」
茹でたトウモロコシの美味しそうな匂いが奥から漂ってくるが、春は振り切るかのように、勢いよく階段を上がっていった。そして、自分の部屋に入ると、バッグを放り投げ、ベッドにダイブした。
春は小さい頃から、理玖に恋をしていた。
出会った当時の理玖は、近所の古いアパートに住む貧乏大学生で、春の家族が営む八百屋によく来るお客さんだった。
自分が理玖に恋しているということは、わりと早いうちから自覚していたが、妹以上の存在にはなれないということもわかっていた。
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