ゾンビに感謝

1/9
前へ
/9ページ
次へ
 部屋の隅で白装束の幽霊がタンスを揺らしている。  俺は近づくと大声で唱えた。 「臨兵闘者開陳烈在前」  声に合わせ、手でパッパッと印を切ると、幽霊は怯えた顔になった。  思わず、笑いそうになるが、じっと我慢だ。 「ヤーッ」  掛け声に幽霊は一瞬、辺りを光らせると姿を消した。  俺は厳かに一礼すると、お客の方に振り返った。  恰幅のいい男性だが、素早い動きで俺の両手を握った。 「ありがとうございます。先生、さすがです。あの光は悪霊が成仏したということですよね。これでやっと、眠れます」  毎晩、枕元に幽霊が立つから、寝不足だったらしい。 「これからは恨みを買うことがないよう、身を慎んで生活してください」  そんなことを言ったって、守られることはないだろう。ケチで他人には厳しく自分には甘いという評判だ。それでも、料金はきちんと払ってくれた。  これでしばらくはのんびり生活できる。俺はウキウキした気分でデパ地下弁当と第三じゃないビールを買って帰った。  家に帰り、鍵を開けると、一人暮らしなのに、テレビの声が聞こえる。 「キャー」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加