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部屋の隅で白装束の幽霊がタンスを揺らしている。
俺は近づくと大声で唱えた。
「臨兵闘者開陳烈在前」
声に合わせ、手でパッパッと印を切ると、幽霊は怯えた顔になった。
思わず、笑いそうになるが、じっと我慢だ。
「ヤーッ」
掛け声に幽霊は一瞬、辺りを光らせると姿を消した。
俺は厳かに一礼すると、お客の方に振り返った。
恰幅のいい男性だが、素早い動きで俺の両手を握った。
「ありがとうございます。先生、さすがです。あの光は悪霊が成仏したということですよね。これでやっと、眠れます」
毎晩、枕元に幽霊が立つから、寝不足だったらしい。
「これからは恨みを買うことがないよう、身を慎んで生活してください」
そんなことを言ったって、守られることはないだろう。ケチで他人には厳しく自分には甘いという評判だ。それでも、料金はきちんと払ってくれた。
これでしばらくはのんびり生活できる。俺はウキウキした気分でデパ地下弁当と第三じゃないビールを買って帰った。
家に帰り、鍵を開けると、一人暮らしなのに、テレビの声が聞こえる。
「キャー」
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