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癒しの場所
表通りから外れ、細い小路の先にある雑居ビル、開店したばかりのバーの扉を開けた。
ブルーの間接照明とクラシカルな雰囲気の店内、カウンター席が6席とテーブルを囲むような半円のゆったりとしたソファー席が3つのこじんまりとした店内。
ただ普通と違うのは特別な男が集まる場所だった………
この店に通うようになって5年が経った、5年前偶然見つけたこのバーが今では唯一本当の自分でいられる場所だった。
あいつが居なくなった部屋は何時までも、あいつの痕跡が残り俺を苦しめた。
そんな部屋に帰る気になれず、夜の街を彷徨い偶然見つけたこの店。
カウンターの椅子に腰を掛け、濃い水割りを舐める俺に話しかけてくれたオーナーの橘さん。
穏やかで聞き上手な彼が俺の話を聞いてくれた。
誰かに聞いて欲しかった・・・・ただ誰かに話したかった。
彼はただ黙って俺の話を聞いてくれた。
泣きながら彼との出会いと別れを話した。
それから月に2.3度ここへ来てカクテルを飲み彼と同じ時間を過ごした。
橘さんは30代後半、落ち着いた雰囲気と心を落ち着かせる低くそれでいて耳に優しい声。
その声を聴いているだけで、気持ちが落ち着き癒された。
この場所でその日だけの相手を探し、夜を共にすることもある。
だが、誰と一緒に居ても満足することも、心が晴れることもなかった。
無悲しく時間だけをやり過ごす毎日、あの青春の輝くような日々は遠い昔の想い出だった。
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