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愛しさ
俺の異変に気が付いた橘さんが俺を2階の自室へと連れて行ってくれた。
「碧・・・・・何があった?」
「・・・・・あいつが・・・・・・」
「さっき入ってきた客か?」
「・・・・・・そう」
「ここに居ろ・・・・・見てくる」
「・・・・・・」
今見た光景が瞼に焼き付き、頭から離れなかった………
若い男と濃厚なキスをするあいつ・・・・・・
別れて5年・・・・・何があってもおかしくない・・・・恋人だっているだろう・・・・・結婚してる可能性だってある。
そう思うことはあった・・・・・・だが目の前であんな姿を見たショックは自分で思っている以上の衝撃だった。
「どうやら知り合いってわけじゃなさそうですよ・・・・・」
「って言うと・・・・・」
「あの方相当酔ってて・・・・・・自分がどこにいるのかわかっていないようです」
「・・・・・あいつは飲めません・・・・・・」
「若い子が席を立った空きにあの方をここへ連れてきます」
「お願いします」
酒に酔った姿など見たことがなかった・・・・・・・決して乱れることのない姿が思い浮かぶ。
あいつはいつも凛としていた、乱れることも酒を飲んで我を忘れるなど考えられない………
それとも、この5年であいつは変わったのだろうか?
酒を飲み酔いに任せて若い男と戯れる………そんな男になったのだろうか?
自分の知らない過ぎ去った時間が確かにあった、あいつと俺の逢わなかった時間………そこに誰が存在し、あいつを慰め熱く抱き締めたのだろう。
あいつを抱えて橘さんが入ってきた、酔ったあいつをソファに寝せる・・・・・
・
「・・・・・・当分起きないでしょう・・・・・」
「すいません・・・・・・連れて帰ります」
「起きるまでここで休んでていいですよ・・・・・・私は構いません」
「・・・・・・すいません・・・・・そうさせてもらいます」
橘さんはそう言うと店へ降りて行った。
眠っているあいつの顔を見た・・・・・・大人びた男の顔だった・・・・・・知らない5年の月日がその顔にはあった………埋めようのない5年の月日。
寝るあいつの髪をかき上げ頬に手を置いた・・・・・記憶が5年の月日を遡る・・・・・・愛おしかった、堪らなく胸が苦しかった。
涙が頬を伝った‥‥…そっと唇にキスをした。
その時あいつが小さな声で呟いた………
「 碧・・・・・碧・・・・・・」
はっきりとそう言った・・・・・・あいつの夢に俺がいた・・・・・・俺と同じようにあいつも俺を夢に見ていた。
嬉しかった、堪らなく嬉しくて胸がときめく・・・・・・あの頃のように、熱い気持ちが沸き上がった。
せめてあいつが起きるまで・・・・・・あいつの胸に耳を当て胸の鼓動を聞きながら目を閉じた。
あいつの夢に俺が居て、俺の夢にあいつが居た。
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