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「たった一人の運命の相手に、こんな風に扱われたいと思ったことはないか? もっと深く繋がりたいと渇望した事は?」
私は強く奥歯を食い縛った。目尻に涙が滲む。
「本当に分かりません。これは体が勝手に反応しているだけです。流されたくない」
「流されてくれて構わないのにな。わざわざ本能に抗って辛いだろう。このホテルのスイートを押さえて、今晩抱いてやろうか」
「絶っ対に、嫌です」
「ほう、なら別方向から攻めるか」
社長は手を引くと、ニヤリと唇の端を吊り上げて頬杖をついた。
「雨宮に悪いようにはしない。運命の番になれば、俺はお前にあらゆるものを与えると約束する」
甘美な感覚から解放されて、私は息も絶え絶えに問い返す。
「……例えば?」
「何でもいい。宝石でも宇宙旅行でも。雨宮が求めるなら、それだけで与えるに値する。不自由はさせない」
「私は今だって自由ですよ。というか社長に恋人はいらっしゃらないんですか?」
「いたとしても、俺は雨宮を選ぶ」
迷いのない社長の答えは、恐ろしく的確に私の地雷を踏み抜いた。
「それは私が運命の番だから、ですか」
私は軽く笑った。胸がむかついていた。
運命の番がそんなに大切か。
誰を踏み躙っても、その骸の上に砂糖菓子の家を建てようと?
そんなことは私が許さない。
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