392人が本棚に入れています
本棚に追加
「だが、雨宮が運命の番という事実に間違いはない。時間の問題だ」
「ふぅん、茉優ちゃんだっけ? キミ、柾の運命の番になるつもりはあるの?」
「えっ、私⁉︎」
完全に野次馬気分だった私は椅子の上で飛び上がった。
社長の視線が突き刺さる。
回答を間違えたらどうなるか分かっているだろうな、というメッセージが込められていた。
しかし正直に言えば。
「全然、ありませんけど……」
「おい雨宮!」
私の返事に鏑木が腹を抱えて笑い出す。
社長の顔つきが渋くなった。
対照的な二人を見比べ、私は片手で頭を掻く。
「既に婚約者がいるのに、ぽっと出の私が運命面してその仲を引き裂くなんてこと、できませんよ」
「うんうん、普通はそうだよねえ。茉優ちゃんが真っ当な倫理観を持った子で良かったよ」
鏑木が大仰に首を振ってみせる。
完全にこちらを馬鹿にした言い方だったが、結論は私と同じなため一旦無視する。
フォークを手に取り、前菜を口に運んだ。美味しい。イラついた時には美味しいものを食べるに限る。
腕組みして私たちの会話を聞いていた社長が口を開いた。
「――ふざけるなよ」
地を這うような声がその場を圧する。
私は喉を詰まらせて社長を見つめる。彼は底冷えする瞳で鏑木を睥睨していた。鏑木のニヤけた表情が凍りつく。
「馬鹿馬鹿しい。雨宮、帰るぞ」
「は、はいっ」
社長が私の腕を掴んで個室席を出ていく。足をもつれさせながら、私は後をついていった。
前菜は美味しかったけれど、あの鏑木とかいう男と個室に取り残されるのは気が進まなかった。
最初のコメントを投稿しよう!