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私は社長の運転する車の助手席に座り、声をかけるタイミングを図っていた。
レストランを出た後、社長は問答無用で私を自分の車に押し込み、どこへともなく車を走らせ始めたのだ。
窓の外を、ものすごい速さで夜景が通り過ぎていく。
次にコンビニが見えたら言おう、と決めたところで、運転席から声が投げられた。
「……面倒事に巻き込んで、すまない」
社長はまっすぐに前を向いている。街路灯の光に照らされる横顔は硬い。
私はポスンとシートに背中をもたせかけた。良い車なのだろう、しっとりした革の背もたれが体を支える。
「……構いませんけども。社長、婚約者がいらっしゃったんですね」
「月読家の都合で勝手に決められた話だ。俺の意思は関与していない」
社長の顔が忌々しげに顰められた。
「俺はオメガだからな。月読家のアルファ共にとっては、取るに足らない路傍の石だ」
ハンドルを持つ手が強く握り締められる。
声の底に激しい憤りが流れているように聞こえて、私は彼の経歴を思い出した。
「もしかして、社長が月読コーポレーションとは関係のないクラウン製薬にいるのって……」
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