393人が本棚に入れています
本棚に追加
それだけあって彼の目は非常に厳しく、経営会議に上程した議題に対し、承認を得るのは非常に難しい。
同じ机に座る他の取締役たちが慰めるような視線を部長に送る。
とはいえ社長の指摘は至極ごもっともで、誰も反対はしない。
社長の出席する会議の空気はいつもこんな感じだった。
会議というか、魔王に挑む勇者を見ている気持ちだ。絶対にこの社長を敵に回したくはないと思う。
やがて経営会議が終わり、取締役たちがぞろぞろと部屋を出ていく。
頭を下げて全員を見送った後、私は一人片付けにとりかかった。
録音データを保存し、プロジェクターをしまい、椅子を定位置に戻し——。
「あれ?」
一番奥の席、その椅子の下に万年筆が落ちているのに気づいて手を止めた。
拾い上げてみるとずしりと重くて、いかにも高級そうだ。
この場所に落ちているということは、社長のものだろうか。
あとで秘書室に届けにいくか、と万年筆を机に置いたとき、部屋のドアが開いた。
「すまない、ここに万年筆を落としたと思うんだが」
現れたのは社長だった。
一瞬だけ私に目を留めると、すぐに視線を机に向け「それだ」と呟く。
私は「は、はい」と若干噛みながら、万年筆を持って社長の方へ歩いていった。
直接話すのなんて初めてだから、緊張に脈が高鳴っている。
「どうぞ」
そう言いながら万年筆を差し出した時、ふと鼻先を甘い香りがかすめた。
最初のコメントを投稿しよう!