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香水だろうか、と社長を仰いで息を呑む。彼は突然、具合悪そうに喉の辺りを押さえて、ハァと熱い息を漏らしていた。その頬が、赤い。
それを見た瞬間、ドクン、と強く心臓が脈打った。
さっきまでの緊張とは違い、私の意志を離れて、体が勝手に反応している。
甘い香りはますます強く濃く漂う。呼応するように、社長はどんどん具合が悪そう——というより色気を醸し出し始め、私は悟った。
これはオメガの発情期だ。
この世には、男性と女性と呼ばれる第一の性だけでなく、第二の性が存在する。それが、アルファ・ベータ・オメガの三つだ。時に第二の性は、第一の性よりも重視される。
一般的にアルファは、容姿や能力に優れ、企業のトップや政治家などの支配階級になりやすい。
人口全体の0.5%ほどで、アルファが生まれると栄達の未来が約束されたと一族郎党大喜びなのだそうだ。
最も数が多いのはベータで、いわゆる中間層。ベータに生まれれば、大体は穏やかな人生を送れるだろう。
——オメガと違って。
オメガは最も稀少で、かつ最も特殊だ。
オメガの人間は男女問わず、三ヶ月に一度の周期でヒートと呼ばれる発情期を迎える。
その間はアルファを誘引するフェロモンを放ち、見境なく周囲の人間に欲情し、繁殖のことしか考えられなくなるほどの強い性欲に襲われるのだそうだ。
当然、ヒートの間は社会生活もままならない。それを理由に、オメガを差別する者も残念ながら存在する。
とはいえ抑制剤を飲めばある程度ヒートを抑え込め、通常通りの生活を送ることも可能らしい。
だから、たぶん……。
社長はオメガで、抑制剤を飲んで今まで過ごしてきたのだろう。
それなのに、どうして今ヒートに入ってしまっているのかは分からないが。
「雨宮」
苦しげな息の下、社長が私を呼んだ。
何ですか、と応じつつ、彼が私の名前を覚えていたことに驚く。
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