デート

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 リュックには第二の性の診断結果のプリントが入っていて、複雑な気分だった。  アルファ。お姉ちゃんを傷つけた男と同じ。  でも本当にアルファが優秀っていうなら、良い大学行って良い就職先見つけて、お姉ちゃんを楽にできるかも? 『ただいまぁ』  一歩家に足を踏み入れて、おかしいと悟った。家の中は真っ暗だった。人の気配すら、一つもない。 『誰もいないの……?』  息を吸い込むと、カレーの匂いに混じった、饐えたような臭いが鼻をついて、私はハンカチで鼻と口を覆った。  暗い廊下を進み、そして。 『お姉ちゃん……?』  手探りでダイニングの電気をつけ、私の目に入ったのは。  カーテンレールで首を吊った、姉の無惨な成れの果てだった。   「――私は今でも夢に見ます」  墓石を見つめて、私は拳を握りしめた。 「夢の中で私は、あれこれ違う事をしてみるんです。姉に励ますような事を言ったり、夕飯作りを変わったり。でも最後は同じ」  吸う息が震える。何度も深呼吸を繰り返して、ぐすっと鼻をすすった。 「あの時、どうしたら良かったのか分からない。何て言えば姉を止められたんでしょう。私はもう姉の死んだ歳に並んでしまった。それなのに、大切な人の命を守る術すら思いつかない……」  足元に視線を落とす。  水の滴が、ぽたぽたと砂利の地面に落ちて、そこだけ丸く色を変える。
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