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でも私にはできなかった。何と言われても、私自身が一番私を信じていない。
どうしたって、運命の番には、なれない。
耳に吐息が触れる。そうして、熱に掠れた、震える声が囁かれた。
「茉優、……俺の運命の番になんて、ならなくていい」
私は弾かれたように顔を上げた。
悲しげに眉を下げて、柾さんが微笑っていた。こんなに悲しい笑顔を、私は初めて見た。
「何度でも言う。茉優は絶対に、誰かを傷つけて平気でいられるような人間にはならない。だが茉優が嫌がる事を、俺は無理強いできない」
「でも、そうしたら、柾さんは……」
柾さんの手が私の頬を包む。大切な物に触れるような、慈しみに満ちた仕草だった。
「俺がどうなるとしても、無理やり茉優を運命の番にする事はできない。茉優はもう――俺にとって、自分の都合で利用していい存在ではないからだ」
「そ、れは……」
告げられた言葉の意味に、胸が詰まる。
小さく体が震える。とっさに目を伏せて、言うべき事を探す。
けれど私がそれを見つける前に、柾さんが口を開いた。
「だから最後に一度だけ……キスしてもいいか」
頬に添えられた手が滑って、顔を上向かせる。そう聞かれれば、私のできる返事は一つだけだった。
すん、と鼻を鳴らす。
「は、い……」
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