暗雲

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 ■ ■ ■ 「全部取得条項付種類株式の取得には条件があるよねえ。何か分かるかなぁ、雨宮茉優」  クラウン製薬本社ビル最上階、社長室にて。  大きなモニターに映る鏑木東生のニヤニヤ顔に、私は心底ムカつきながら対面していた。 「……主に、株主総会での特別決議ですね」 「ご名答。さすが優秀だなぁ」  ぱちぱち、とやる気のない拍手が送られる。  私は懸命に無表情を貫いていた。  隣でモニターを眺める社長も、白々とした面持ちで椅子にもたれている。  取締役会後、私はこっそり社長に引き止められた。  何事かと思っていると社長室に連れていかれ、こうして鏑木とWeb会議しているというわけだ。 「じゃー、次の問題。特別決議に必要な株主の賛成率は?」 「弊社においては、株主総会に議決権の三分の一を有する株主が出席し、当該株主の議決権の三分の二以上の賛成が必要です」 「すごーい、さすが柾の運命の番だねぇ。ねぇ、鏑木商事に来ない? キミみたいな優秀な子、僕好きなんだよね。顔も可愛いし」 「――いい加減にしろ」  割り込んできたのは社長だ。苛々と机を指で叩き、 「用件は何だ。さっさと言え」 「まったく、そんなに怒るなよ。短気な男は嫌われるもんだぞ。まあ俺は嫌いじゃないが」 「切るぞ」  社長が本当に「退出」ボタンを押そうとしたので、私は慌てて止めた。  まだ話を聞いていない。  画面の向こうでは鏑木が笑い転げている。 「一応、最後通牒をしておこうかと思って。柾、本当に僕と結婚するつもりはない? 今僕に頭を下げたら、買収をやめてあげてもいいけど」
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