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「――社長」
私は低く呟いて、社長の腕に触れた。
「……この場を切り抜ける方法、ありますよね」
「やめろ」
社長が勢いよく私の手を振り解く。その顔は苦しみに染まっていた。
「責任感で、雨宮が、犠牲を払う必要はない」
「犠牲?」
はは、と笑う。漏れる息の熱さが、限界が近いことを伝えていた。
こんなに追い込まれても、私の意志を守ってくれようとする人を、他に知らない。
運命は代替不可能というなら、私にとっては社長こそがそうだった。
「違います、私は――私が、そうしたいと思うから、そうするんです」
もう一度手を伸ばし、社長の肩を掴む。
決意を込めて顔を覗き込むと、ばちんと音の鳴りそうなほど強く、目があった。
社長は驚いたように私を見つめる。そうしてやがて、体から力を抜いた。
わずかに首を傾け、私のもつれた前髪を払う。口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。
「……いいんだな。一生だぞ」
私は微笑んだ。
雨宮茉優がアルファであることは、もう覆しようがない。
姉が運命の番のせいで死んだことにも変わりがない。いつかアルファの暴力性が、私を蝕むかもしれない。
それでも、今、私は、目の前の運命の人を守りたい。
「大丈夫です。私が大丈夫になったのは……社長のおかげなんですよ」
社長がほのかに笑い、静かに目を閉じた。その頸に、そっと唇を寄せる。
――こうして、私は運命の番を得た。
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