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斉木のような正義感の強い男にとって道永は「いけすかないやつ」だったのだ。一高校生の分際で金を使って人を動かすという行為が許せなかった。
だから、高校を卒業して以来会っていなかった彼と食事するのが不思議で仕方なかった。まさか道永から誘われるとは夢にも思わなかったのだ。だが予定がない日を設定されてしまったし、気が乗らない、行きたくないと正直に断れるほど斉木も子供ではなくなっていた。
彼が指定した店は、都内にあるなんでもありの創作料理レストランだった。来る途中にスマホで検索してみたらミトランガイドでも紹介されている有名店と知り「道永らしいな」と思った。ブランドや格付けにこだわるところが鼻につく。
料理のジャンルは創作料理のはずだが、店内のインテリアはアジアンテイストで落ち着いた雰囲気だ。
「いらっしゃいませ、斉木さまですね」
待機していた店員がすぐに個室へ案内してくれた。わざわざ個室を予約しているあたりも道永らしいと言えるだろう。
まさか貸し切りなんて真似はしていないだろうな。斉木は不安になってきた。
店員の案内は丁寧だが、斉木は名前を告げていない。他に客がいる気配はなく、店内の照明は少々薄暗く感じた。
「よぉ、斉木。久しぶりだな」
誘導された個室の扉を開けると、すでに道永がテーブルに着いていた。高校時代の小憎らしいボンボンの顔を思い描いていた斉木は予想を裏切られた。
「久しぶりだな! おまえ……元気か?」
本当は「元気そうだな」と言いたかったのだが、一目見て顔色がすぐれないのがわかった。端正な顔立ちだが、血色が悪く目元のクマもよけい気になる。
「大丈夫だ、今のところはな。それより本当に久しぶりだ……高校を卒業して以来だから、十五年ぶりくらいか」
「そうだな」
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