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「俺の心臓は海外渡航に耐えられる状態じゃなくてね。国内で臓器提供者(ドナー)を探すしかないんだよ。だから、ありとあらゆる手段を講じて探した。金も惜しまず使った」  道永の言葉に、斉木は不快感を露わにした。 「金を使ってどんな方法を使ったんだ? まさか違法な手段じゃないだろうな?」  斉木の問いに、道永は直接答えなかった。 「あらゆる手段と言っただろう。法律や理屈なんてものはあとから付け足せばいい」  斉木は絶句した。大病を患っても道永の傲慢さは変わらない。変わっていないどころか死を身近に迫り常軌を逸している。ルールを逸脱するほどに。 「ある筋から手をまわしてね、骨髄バンクを調べてもらった。斉木もドナー登録していただろう?」  急に水を向けられ斉木はぎこちなくうなずいた。以前職場で同僚が骨髄性白血病にかかり、治療のために造血幹細胞の移植が必要だと聞かされた。同僚の力になればと思い、仲間内でドナー登録したのだ。その同僚は、彼のHLA――白血球の型と適合するドナーが見つかり移植を受けて見事回復した。斉木もそれきり自分がドナー登録したことすら忘れていた。 「斉木、おまえのHLAが俺のと適合したんだ」  道永は得意がって言ったが、斉木は怪訝な表情を浮かべた。 「心臓と骨髄は別ものだろ」 「だが、他人同士で適合する確率の少ない白血球の型が適合している。しかも相手が高校時代の同級生なんて偶然はそうないだろう。血液型も同じ。俺はそこに運命を感じたよ」  斉木の食事を眺めるばかりだった道永が熱に浮かされたようにまくし立てた。その喋り方に圧倒され、慌ててそれを制する。 「何が運命だよ! おまえは俺を食事に誘い出して何をさせたいんだ?」  斉木は後悔した。最初から、そう聞くべきだったのだ。信頼できる友人同士とも言えないのに、わけもなく食事を奢ってもらうほうがおかしい。 「おまえの心臓を俺に譲ってくれ」  心臓をよこせ――道永の要求はそれだけなのだ。同時に臓器提供者の死に直結している。 「……何を言っているのかわかっているのか?」  聞いてから愚問だと思った。道永の目を見れば、彼が本気であることは明らかだ。二つの眼は痩せた体とは対照的にギラギラと輝いている。命に執着する貪欲な光である。 「何も俺の心臓じゃなくたって……」 「もちろん斉木以外にもドナー候補は複数絞り込んだ。それでもリスクヘッジはしたい。性別と血液型が同じで、体型もほぼ同じ。おまけにHLAも適合している」  うっとりした目で道永は言い放った。まるで恋人に会いを囁くように。 「俺にとって最高のドナーは斉木だ」 「やめてくれ」  ドナーを選び出すために、自分の周辺まで調べたということだ。肉親がいないというのも道永にとっては好条件なのだろう。 「俺を殺すための調べたのか!」  道永は否定しなかった。激昂する友人を凝視する。
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