よろしくなんて言えない(点景2020年8月7日早朝)

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「え、僕も?」 「もちろん。入れたカネ全部使え」 「わあ、ありがとう幽玄さん!」 「ちょ、ちょっとおおおおおおお!」  メイが振り向いた時には、彼女のおじはとっくに歩き去っていた。 「……いつから気づいてたの」 「役に立たない、のあたりから。うーん、さすがに千円分買うのは難しいね。どうしよう」  なんで言ってくれなかったの、と思ったが、口には出さなかった。三条君がそこまでする義理もない。  ベンチに座ってジュースを飲む。冷たくてホッとした。  三条がペットボトルをもう一本買って、メイに差し出した。 「そんなにいらないわ」 「持ってなよ。コレおつり、きみのおじさんに返しといて」 「イヤよ」  とは言ったが、どちらも受け取った。ペットボトルを振り回す。 「こんなんで、お化けが倒せるの?」 「お化けじゃなくて。やっぱり熱中症なりかけてるんじゃないの」 「は?」  三条もベンチの端に座ってペットボトルを開けた。 「榊さん、お化け除けのお守り持ってるんでしょ。それが効かない相手なら、あの人もさすがになんか言うか除霊するでしょ。何もしなかったってことは、何もいないってことじゃない?」 「…除霊する必要ない雑魚霊、かも」 「榊さん、おじさん近づいても分からなかったじゃない。前に疳の虫に反応してたのに。お守りがちゃんと効いてるんなら、弱いお化けのせいじゃないよね」  意外に理路整然と反論されて、メイは驚いた。学校では化石の話しかしないのに。化石。 「そういや、化石掘りに行くんじゃなかったの」 「うん、でも具合悪そうな人置いてってまですることじゃないから」  うつむくと、おつりが目に入った。 「ウチは休憩所じゃないぞ」 「でも事務所の近所で倒れるよりマシでしょ。…あとで家まで送って。よろしく」 「あんま調子乗んなよ」  と言いながら、幽玄はスポーツドリンクを二人に出した。  ふたりは幽玄の事務所に行き、飲み物のお礼を言ってお釣りを返した。メイの心配がなくなれば、三条は神社に行ける。 「いいの?」 「いいの。同級生にこれ以上借りを作りたくない」 「借りとか気にしなくていいのに」 「私は気になるのよ!」 「そうなんだ。じゃあまた」 「だから『また』はないってば!」 「素直に『これからもよろしく』言っとけよ。こんないい奴に見放されたらお前、終わりだぞ」 「うるさい!」  横から口を挟む幽玄を睨んで、三条に「行きなよ」と促した。  三条が事務所を出てから、メイは呟いた。 「……普通に暮らせてるいい人を、こんな霊とのゴタゴタに巻き込みたくないじゃない」 「それをいいだけ経験した上で言ってんだぞ」  メイが振り向くと、幽玄はキッチンに引っ込んでいた。  おじにもこういうことがあったんだろうか。認めたくないが、霊能者としては向こうが上なのだ。 「あのさ」  キッチンから出てきた幽玄が凍った保冷剤を投げてきたので、やっぱり素直になるのはやめた。今日だけは。 〈了〉
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