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「え、僕も?」
「もちろん。入れたカネ全部使え」
「わあ、ありがとう幽玄さん!」
「ちょ、ちょっとおおおおおおお!」
メイが振り向いた時には、彼女のおじはとっくに歩き去っていた。
「……いつから気づいてたの」
「役に立たない、のあたりから。うーん、さすがに千円分買うのは難しいね。どうしよう」
なんで言ってくれなかったの、と思ったが、口には出さなかった。三条君がそこまでする義理もない。
ベンチに座ってジュースを飲む。冷たくてホッとした。
三条がペットボトルをもう一本買って、メイに差し出した。
「そんなにいらないわ」
「持ってなよ。コレおつり、きみのおじさんに返しといて」
「イヤよ」
とは言ったが、どちらも受け取った。ペットボトルを振り回す。
「こんなんで、お化けが倒せるの?」
「お化けじゃなくて。やっぱり熱中症なりかけてるんじゃないの」
「は?」
三条もベンチの端に座ってペットボトルを開けた。
「榊さん、お化け除けのお守り持ってるんでしょ。それが効かない相手なら、あの人もさすがになんか言うか除霊するでしょ。何もしなかったってことは、何もいないってことじゃない?」
「…除霊する必要ない雑魚霊、かも」
「榊さん、おじさん近づいても分からなかったじゃない。前に疳の虫に反応してたのに。お守りがちゃんと効いてるんなら、弱いお化けのせいじゃないよね」
意外に理路整然と反論されて、メイは驚いた。学校では化石の話しかしないのに。化石。
「そういや、化石掘りに行くんじゃなかったの」
「うん、でも具合悪そうな人置いてってまですることじゃないから」
うつむくと、おつりが目に入った。
「ウチは休憩所じゃないぞ」
「でも事務所の近所で倒れるよりマシでしょ。…あとで家まで送って。よろしく」
「あんま調子乗んなよ」
と言いながら、幽玄はスポーツドリンクを二人に出した。
ふたりは幽玄の事務所に行き、飲み物のお礼を言ってお釣りを返した。メイの心配がなくなれば、三条は神社に行ける。
「いいの?」
「いいの。同級生にこれ以上借りを作りたくない」
「借りとか気にしなくていいのに」
「私は気になるのよ!」
「そうなんだ。じゃあまた」
「だから『また』はないってば!」
「素直に『これからもよろしく』言っとけよ。こんないい奴に見放されたらお前、終わりだぞ」
「うるさい!」
横から口を挟む幽玄を睨んで、三条に「行きなよ」と促した。
三条が事務所を出てから、メイは呟いた。
「……普通に暮らせてるいい人を、こんな霊とのゴタゴタに巻き込みたくないじゃない」
「それをいいだけ経験した上で言ってんだぞ」
メイが振り向くと、幽玄はキッチンに引っ込んでいた。
おじにもこういうことがあったんだろうか。認めたくないが、霊能者としては向こうが上なのだ。
「あのさ」
キッチンから出てきた幽玄が凍った保冷剤を投げてきたので、やっぱり素直になるのはやめた。今日だけは。
〈了〉
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