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そのとき彼は「悔しい、悔しい、悔しいっ……! しかし、これでいいっ……!!」などと意味不明なことを呟いていたという。
「どういうことですの、父上! 財産を全ロストしたって、これから一体どうするつもりなんですの!?」
「すまん、杏華……。この屋敷からもすぐに出ていかなくてはならん……。使用人もすべて解雇し、一からやり直すつもりだ。
こうなったのもすべて俺の責任だ。本当に申し訳ない」
慌てて屋敷へ帰り杏華が問い詰めると、父は深く深く頭を下げて謝罪した。
普段は豪胆でありつつも気高い彼が、それほどまでにしおらしくしているのは、杏華にとって初めてのことだった。
「父上……、しかし、やってしまったものは仕方ありませんわ。
そんな無謀な賭けに出たのにも、何か事情がおありになられたのでしょうし……」
「うむ、初めは俺のポケットマネーだけにするつもりだったが、次第に負けが込んで、預金に手を出し、ブランド物の時計や車などを賭け、やがては会社の資産もベットして、最後には屋敷しか賭けるものがなくなり――」
「ただのギャンブル中毒ですわ、このクソ親父!?」
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