0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
今日は卒業式だ。つまり、別れの日。
大半がそのまま上に上がる中、高校受験に成功した私は今日でこの学校を出て行く。
正直、気が合わない人も多かったし、この学校自体にあまり未練はない。
ようやく出られた、という気持ちすらある。
でも、ひとつだけ心残りがあった。安易だけど、好きな人がいたのだ。
身長が高くて、イケメンというにはちょっと微妙だけどはっきりした顔立ち、なにより話していてとても心地よい人だ。
帰りが被るといつも喋って帰っていたし、自惚れかもしれないが、私は彼の親友ポジションだと思っている。
とりあえず、何人かの友人に声をかけて写真を撮ったのち、手が空いたらしい彼に声をかけた。
「ねえ、一緒に写真を撮ろう?」
「いいよ」
クラスメイトに撮ってもらった写真を見ると、彼は一緒の画角に収まるためにちょっと脚を曲げて写っていた。
「なにこの謎の姿勢(笑)まあいいか、ありがとね。あとで送っとくわ」
「おっけー。じゃあ、3年間ありがとうございました」
「うん、こちらこそありがとう。楽しかった」
所詮中学時代、ここで分かれたらきっともう一生会えないだろうということは2人とも悟っていた。
間には少しの沈黙が広がる。
どうせ最後だから告白すべきだろうか、それとも、楽しかった思い出としてアルバムに仕舞うか、考えがぐるぐる頭の中を回っている。
「じゃあ、また」
先に口火を切ったのは彼のほうだった。
「うん。ばいばい」
引き止める言葉も思い付かず、あっけなく彼との時間は終わった。
せっかくの告白のチャンスをふいにしてしまった。いや、きっと、今日だけじゃない。機会はいくらでもあったはずだ。
ただ、彼にそんなこと思ってるなんて、と言われたり、バレて周りに囃し立てられたりするのが怖かったのだ。そこが私のチキンたるところだ。
夜になり、帰宅すると彼に一緒に撮った写真を送る。
文面での告白は反対派なので、告白はもう諦めていた。
きっと高校に行けば次の恋も待っているだろうし、いまさらもういいことにした。
最後に、学校は離れたけどこれからもよろしく、と捨てきれない未練の乗った文章を送り、彼とのトークをミュートした。
最初のコメントを投稿しよう!