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由乃のやつ、どこに行ったんだよ。
俺は舌打ちしながら、日が暮れた街を歩き回る。つっかけサンダルのまま家を出てきたせいで、靴擦れができて足の甲が痛い。太陽は沈みつつあるものの、8月の夜は蒸し暑く、じっとりと粘り気のある暑さが体にまとわりついた。
こんなくそ暑い中、財布も持たずに出て行くなんて。
右手に握ったままのスマホには何の連絡もない。ダメ元で電話をかけたものの、「おかけになった電話は電波の届かないところに……」と無機質なアナウンスが繰り返されるだけ。
手汗でべたつくスマホをポケットに入れ、俺はいらいらと辺りを見回した。由乃が行きそうなコンビニ、スーパー、どこを探しても見つからない。
「くそ、由乃のばかが」
呟いてポケットに右手を突っ込む。煙草でも吸って落ち着こうかと思ったのだが、ポケットの中にはスマホしかない。急いで出てきたせいで、家に忘れてきたようだ。
ちくしょう、と思いつつ左のポケットも探る。煙草の代わりに入っているのは、小さなネックレスだった。
唇を噛み締め、ポケットの中でネックレスを握りしめる。由乃が出て行ったきっかけは、このネックレスだった。
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