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5・6限目の講義が終了。選択科目だったから俺の専攻とは関係ない内容だったけれど、案外有益なことを教えてもらえたように思う。
「ヘレン・ケラーって凄いよねえ。目も見えない耳も聞こえないのに、活動家として名を馳せたんだから」
とっくに机上を片付け終えていた恩巳が、鞄を背負ってこちらを向いている。
「ゲームもできない。マンガも読めない。アニソンも聴けない。アニメも観れない。なにが楽しくて生きてたんだろ」
羅列がサブカルオタク丸出しで、些か呆れてしまう。
「恩巳とは感性が違うんだよ」
リュックの口をジイイッと閉めて、俺も立ち上がる。
「温仕は次、空いてるでしょ?」
「空いてはいるけど、9・10限に小テストあるからゆっくりはできねえぞ」
「せっかくいろんなコミュニケーション方法を教えてもらったんだから、実践して覚えなくちゃ」
「俺、まだテスト全範囲に目え通せてないんだけど」
「ちょっとだけいいじゃん。30分だけ付き合ってよ」
「ったくしょーがねーなー」
「2、3年でもいいよ?」
「長えよ。30分な!」
恩巳は何やら張り切っている。先程の視聴覚障碍者に関する講義の最中、彼女は一生懸命に指文字やら点字やらを覚えようとしていた。対する俺は、講義にあまり集中していなくて、細かいところまでは頭に入っていない。
お前が隣に座っていた所為だ。そう言い放ってやりたいところだが、人の所為にするのは良くない。思いやりの大切さは先程の講義で学んだばかりだ。はいはい、俺が悪いんですよ。
「どーせ温仕は解ってないだろうから、私が教えてあげるよ~」
ニンマリとした笑みを浮かべて、恩巳は人差し指で俺の頬をドリルする。やっぱお前の所為だ。
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