2人が本棚に入れています
本棚に追加
もとの世界では午後三時だったのに、こちらでは宵の刻。むせかえる緑の香りの中で、肥え太った動物や人間達が、あちこちで甘味や脂ぎった食べ物を貪っていた。しかし葉月も流月もそんなものには目もくれなかった。
「流月、許さない」
彼は彼女に冷たく笑った。
「怒っても美しいな。愛していたよ」
「私も。でも父さんを殺してまで貫く愛じゃなかった」
「僕は殺さないといられなかった。あの男の娘じゃなかったら、君を取っていたよ。でも僕の青い鳥は復讐を遂げることだった。さよなら葉月」
彼は又ダイヤルを回した。彼女は追いかけた。
次にたどり着いたのは熱夢の森だった。いたるところで獣の雄雌、男女が絡み合っている。流月は葉月にほほ笑んだ。
「二人で歩いた森だもんな。ついてきて当然か。でも葉月、雲行きがあやしくなってきた。今度はどうかな」
彼女は一瞬だけ空に目線を向けて、すぐ流月を睨み直した。
「忘却の雨が降るね」
「ああ。すべてを押し流してくれるよ」
「いいえ。覚えている方法なら、もう知っているじゃないか。――“私の目的はあなたを殺すこと”」
最初のコメントを投稿しよう!