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店内にある花をぐるりと見渡す。
花の名前はわからないけれど、なんとなく、3ヶ月前にはなかった花があるのに気づく。
「そういえば、お店の名前ーー“mire”って、どういう意味ですか?」
ふと、気になっていたことを尋ねた。
「泥沼」
彼女は言った。
「英語で“泥沼”とか“ぬかるみ”とか“窮地”とかって意味ね」
となぜか胸を張る。
それ、全部よくない意味なんじゃ……?
「でも、フランス語では“目標”とか“ねらいを定める”って意味になるの」
「全然違う意味になるんですね」
「私はね、どっちもあっていいと思うのよ。泥沼も、目標も。泥沼にはまった人がそこから抜け出して目標を持てるようになったら、きっとすごく強くなれると思うから。お店をはじめるときね、私は頑張ってる人を応援したいと思ったんだ」
泥沼も、目標もーー。
「って、それは後から考えたことで、ほんとは私の名前の“三玲”からとったんだけどね」
と彼女ーー三玲さんが肩をすくめた。
「なんだ。でも、いい名前ですね」
私は笑って言った。
少し前まで、私は泥沼にいた。誰のことも信じられなくて、一生そこから抜け出せないような気がした。
でも、いまは違う。
笑えるようになった。
そして、目標もできた。
「私、いつか、夜空の下いちめんに広がる花畑をこの目で見てみたいな。そして、その景色を、絵に描いてみたい」
真っ暗な闇にたくさんの色を散りばめたあの絵のようなーー
「見れるよ。きっと」
三玲さんは、にっこりとほほ笑んで言った。
「よかったらおすすめ教えようか?」
「え、ほんとですか」
そこはものすごく遠い場所かもしれないけれど。
私はどこへだって行けるのだから。
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