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車から降りて、私は目の前の建物を見上げた。 「今日からここに住むんだなあ」 夫の直人も降りてきて、私の隣に立つ。 「まだあんまり実感ないね」 「だな。俺も」 こぢんまりとした長方形の家。まっさらな白い壁。広くはないけれど、ちゃんとした庭もある。 “いつか自分たちの家がほしいね” いつも2人で、そう話していた。 小さくても充分だった。 これからここが、私たちの家になるんだ。 そう思うと、胸がいっぱいだった。 2人でしみじみと感動に浸っていると、 「隣に引っ越してきた方ですか?」 と、声をかけられた。 声のほうを振り返ると、女の人がいた。 「あっ、ごめんなさいいきなり。私、隣の坂口といいます。よろしくお願いします」 と、丁寧に挨拶してくれた。 「いえ、こちらこそ。森です。よろしくお願いします」 私と直人も頭を下げる。 「もうすぐ荷物届くから、俺、先に入って準備してるわ」 「あ、うん」 直人が玄関の鍵を開けて中に入る。 私は最初が肝心だと思い、もう少し話してみることにした。 「えっ、森さん同じ歳なんですか?」 と坂口さんが驚いて言う。 「はい。夫も同じ歳です」 「えー、じゃあうちと一緒ですね!」 坂口萌さん。 ゆるいウエーブのかかった栗色の髪に、花柄のワンピース。かわいらしい奥さんという感じ。 いい人そうでよかった。 お隣が嫌な人だったらどうしようと心配だったけれど、ちょっとホッとした。 敷地内に、白い家が6軒集まっている。 その中で、子どものいない20代の夫婦は私たちだけだった。
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