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あの夜ーー
私の心は憎しみでいっぱいだった。
もし手に凶器を持っていたら、それを使ってしまっていたかもしれない。
そう思うと、いまでもぞっとする。
でも、私が手にしたのは凶器ではなく、夜に咲く、白く美しい花だった。
誰に何の花を贈るのも自由。愛情や喜びだけじゃない、憎しみや悲しみだって、込めたっていい。
そう、教えてもらった。
憎しみをたっぷり込めた花を贈ったこととはたぶん関係ないと思うけれど、あの日からしばらくして、萌は私の前からいなくなった。
裏に住む噂好きの奥さんの話によると、萌の夫婦は私たちが引っ越して来る前からうまくいっていなかったらしく、旦那さんはほとんど家に帰っていなかったらしい。
仲がいいなんて、口だけだったのだ。
だからといって、共感や同情なんて、絶対にしないけど。
隣の家は売地になり、いまのところ新しく誰かが引っ越してくる気配もない。
庭の花も、鉢植えのヨルガオもなくなった。
あれから何度も直人と話し合った。
まだ傷は癒えていない。疑うことも、急に怒りが湧き上がることもある。
もしかしたらこの先もずっと、傷跡は残るかもしれない。
でも、大切に思う気持ちを、どうしても消すことはできなかった。
だから、私は決めた。
もう1度だけ、あなたを信じてみようと。
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