6人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから僕も悲しめってか?」
「笹川お前ふざけんなよ」
「え、何が?」
月曜日、急遽開かれた全校集会で汐梨が交通事故で亡くなったことが知らされた。今も僕の携帯の中で生きているなんて誰も思うはずもなく、泣き出す人もいればわめき散らかして教師に迷惑をかけている者までいた。
「海原が亡くなったんだぞ? お前幼馴染だろ! なのになんでそんな平気そうにしてんだよ!」
体育館を出たあたりで優越感に浸り、スキップで教室に戻っていると、途中で腕をつかまれて壁際に追いやられた。
「そんな雰囲気じゃないのわかんないのか? みんな悲しんでるんだぞ」
「だから僕も悲しめってか?」
「空気読めって言ってんだよ」
顔が近いくて息が荒い。息するたびに顔を出す鼻毛に思わず笑ってしまうとさらに力を強めて押しつぶされそうになる。
「お前が汐梨を殺したのか? だからそんな平気そうな顔してんだな? そうなんだろ! な!」
「痛いって、違うよ僕じゃない」
「じゃあなんで笑ってられんだよ……」
お前の鼻毛にだよ、と小声で伝えると口元をむにょむにょさせてから鼻元を手でぐりぐりさせていた。
「汐梨が言ってたよ。人はみな起こった出来事に対してどう反応するかは自由だって。汐梨の死に対して悲しむのは自由だけど、それこそ僕の自由まで侵害する権利なんてないでしょ」
そう言い放った瞬間、視界が真っ暗になった。後からひりひりとした痛みが顔の中心あたりから感じる。2倍速の英語を大音量で流しているようなざわつきの中でも寝られる自信があることは僕の特技なんだと知った。
最初のコメントを投稿しよう!