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 温かな風が頬を撫でる。小高い丘に停車して、下に広がる近代的な都市を呆然と眺めていた。新たな風が吹く都市、ヴィリス。 「ルナ、ここは良い街だろ?」  車からゆっくりと降り立った父が軽快に笑った。父は傭兵として、任務を遂行するためにこの街に引っ越してきた。  故郷とは比べ物にならないくらい依頼が溢れる都市──大昔に起きた、『厄災』の発端となったこの地で。 「うん!とっても素敵」  見下ろした都市は活き活きとしていて、田舎育ちの私にとっては至極眩しく思える。遠くに走る電車、高々と立ち並ぶ高層ビルの群れに、忙しそうに歩き回る無数の人々。新たな生活の始まりに私は胸を躍らせていた。  ひらひらと桃色の花びらが目の前を舞っていた。反射的にその花弁に手を伸ばすと小さな花弁はひらりと私の手の平を避けて、もっと遠くへと飛んで行ってしまう。しかし、不思議とそれが正しい事のような気がした。遠く広がる都市には何にも囚われない自由が溢れているような気がしたのだった。 「じゃあ、行こうか」  燃えるような赤色の車に手をかけて、助手席へと滑り込む。日は傾き始め、空も赤色に染まっていた。明るく情熱的な赤色が私はいつだって大好きだ。  予感。何か大きなものが動き始めるような予感がしている。  吸い込まれるような夕陽は束の間の情熱で街一帯を照らしていた。
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