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「それでさー、駅前に新しいカフェができたらしくってー」 「えぇっ、ほんとー?今度みんなで行かない?」  ヴィリスに来て早一ヶ月。私はもう巨大な駅の中を右往左往することは無くなったし、お洒落な人々に怖気づくこともなくなった。  ただ、少し残念なことと言えばそれが非常に退屈なことだ。新しい日常も時が経てば色褪せてただの日常へと化す。流行りのファッションだとか、美味しいスイーツだとか、アイドルの出ているドラマの話題にも聞き飽きた私は、生活に目新しさを求めていた。 「ルナも来る?駅前のカフェ」 「わ、私?……今日は、ちょっと用事があるかも」 「そっかー、残念」  機械的に行われる会話は全く以って耳に入らなかった。ただその場に居合わせているだけの他人事のように思える。私はこれ以上ここにいるのも気まずいかと思って、鞄を手に取って教室を後にした。  何か面白いことは無いだろうか。そんな事を考えながらやけに長く感じる廊下を一人歩く。向こう側から重そうな荷物を運ぶ女の子の姿が見えて足を速めた。 「ねえ、半分持つよ」  話したことは無かったけれど、同じクラスの女の子だと分かった。彼女の赤い瞳が一瞬揺らいですぐに逸らされる。 「大丈夫、です。ありがとうございます」  目の前の彼女はこちらには目も向けず淡々と言葉を吐くと、私の横を通り抜けようとする。私はお節介だと分かりながらも、彼女の持つ積み上げられたプリントの山を半分奪う。半分だというのに、想像以上のずっしりとした重さに私は驚きながら彼女の方を見遣った。 「……あ」 「もう、こんなの一人に持たせるなんて信じられない!」  大変そうな人を見るとつい手を貸してしまいたくなる。それが私の悪い癖であり、少し誇れるところだった。情けは人の為ならずなんて言うけれど、大変なことは分け合った方が互いに幸せになれる。きっと世は因果応報だと私は考えている。
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