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「アイツ、自分でやるって言った癖に結局他人に頼ってんのー」
ズキリと耳元を刺すような痛み。遠くで鋭利な言葉が飛んだのが聞こえた。
隣にいた彼女が標的のようだった。尖った言葉は確実に彼女の胸を貫いている。私にはそう見えた。一瞬見開かれた瞳から暗い影が見えた。
「特別な力があるならワープでもしてさっさと教室まで行けばいいのに。私は大変ですアピ?」
「隣の子、転校生だよね?知らないうちに騙されて可哀想ー」
ケラケラと笑った後ろの連中に心底不快になった。自分に刺さっていない凶器が共感覚で痛みを感じるかのように。ふつふつと湧いて出る怒りが何よりもその証明だった。
「何も知らないから手を差し伸べられるんだよ。事実を知ったらきっと──」
「ねえ、アンタ達っ!」
いい加減にしなさい、と声を荒らげようと思った時だった。
隣の彼女が冷めた紅の瞳でこちらを覗いていた。有無を言わさないその表情が私の口を止めた。とても美しいとは思えない、くぐもった色だった。
「……大丈夫です、もう慣れてるので。貴女も標的になりたくなかったら離れていた方が良いですよ。わたしは貴女にとっても厄災でしかないから」
震えるような冷たさの言葉が私の背筋を凍らせた。だから、と彼女の口が動いた時だった。独り言にしては大きい能天気な声が後ろから聞こえてきた。
「んんー?なんかこっちで誰かに呼ばれた気が……って、あぁっ! ──我が使者ハルカよ。主との約束に遅れるなんてなっていないぞ」
隣にいた彼女の表情が、さっきとは違う意味で曇る。
先程の罪悪感や恐怖から、呆れと怒りのような対極な感情を感じた。現れた青年は前半こそ普通の少年だったのだが、急に声のトーンを下げたかと思うと急に別人格に行動権を乗っ取られたかのように意味不明な言葉を並べる。
「や、約束なんてしてないし……学校でその喋り方は辞めた方が良いって何回言ったら……」
対する彼女はさっき私に向けられた絶対零度の冷たさはなく、しっかりと温度のこもった声だった。
「いや、そろそろ来るかなってずっと待ってたのに全然来ないから退屈でさ。……もしかして、その子友達?」
少年はまた人格がすり替わるようにして元に戻り、私の方を見た。眩しいような笑顔に、やっとこの地で同胞を見つけたような気がして親近感が沸く。その隣で少女は恨みの籠ったような表情で少年を睨みつけている。
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