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「信頼合成(シンセ・トランス)!」
彼は何かの相言葉かのように高々と声を上げる。一方で彼女は少々取り乱した様子で口を開いた。
「な、なんでそうやって公に能力を使うの!?わたしには意味無いから、強化をかけないでって言っているのに」
「能力?」
「あっ……」
彼女の表情がみるみるうちに青ざめていった。もしかしたら、聞いてはいけないことを聞いたのかもしれない。だが、もう遅かった。
この状況で変わっていないのは依然にこにことしている少年だけだった。
「へへっ。オレ能力者なんだー。ルナさん、オレのことが嫌いになった?」
「いや。寧ろすごいなって思ったけど」
「な、なんで……?なんで、怖がらないの?」
未だ取り乱し気味の少女は不安そうにこちらを見つめていた。何か異質なものを見つめるようなそんな表情だった。
「だって、オレの事ここに呼んだのルナさんでしょ?」
彼は当然かのようにそう言った。
顔も名前も知らない私が彼を呼ぶ──普通に考えてそんなの不可能だ。それに第一に私は彼を呼んでなんかいない。「意味が分からない」と聞き返そうと思った時だった。
「ほ、ほんとだ……ルナさんから能力反応がある」
「え?えっ?どういうこと?」
観察するような目でこちらを見つめる彼女の小さな呟きに、私は過去最大に混乱していた。先程までとは比べ物にならないような混沌。全く以って彼女達の話が理解できなかった。異国の国の言葉を喋られているような、そんな感覚に陥る。
「ははっ、やっぱりね! ──我が魔眼は人間如きには誤魔化せまい、と言う訳だ。哀れなる少女よ」
「び、微妙に悔しいけど少し安心したかも。えっと、ルナさん」
初めてハルカちゃんの瞳に色が映ったような気がした。絶対零度の冷めた目はいつの間にか優しい笑顔に変わっていた。
「さっきまで警戒してごめんなさい。えっと。改めてわたしはハルカ。一応、能力者」
凍てつくような冷たさを失った少女とあまりにも急な出来事に私は動揺していた。にっこりと笑う彼女は可愛らしくて少し心の距離が縮まったような気がして嬉しかった、けれど。
大体私は能力なんて持っていないし、そもそも能力なんて小説やアニメの中だけの話だと思っていた。もしかしたら何かの夢かもしれない。そう思って、拳を思い切り握りしめると自分の爪が手の平に食い込んで痛かった。
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