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「えっ、臭い?」
水色のカットソーの中は汗だくだった。七月に入ったばかりで、今日の最高気温はもう35度を迎えた。今年の夏は去年よりも暑すぎる。汗をかくのは当然だ。ファンデーションも汗で流れてそう。でも、直さなくていいや。40のおばさんがメイクを直したって、大して変わらないだろうし。
「汗拭いてくれば?」
誠がリュックの中からメンズ用の汗拭きシートを取り出した。
私よりも女子力が高い。今時の男子中学生は汗拭きシートを携帯しているのか。
「うん。じゃあ、もらおうかな」
汗拭きシートでゴシゴシとカットソーの中を拭くと、「ここで拭くな」って叱られた。
「いいじゃない。誰も見てないわよ」
誠がため息をつく。
「信じらんない。お母さん、一応、女だろ?」
「一応って何よ。ちゃんと女性です」
「水野さん」
受付奥の事務所からスーツ姿のスラリと背の高い男性が出て来た。
初めて見る顔……。
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