1話 塾の先生

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「えっ、臭い?」 水色のカットソーの中は汗だくだった。七月に入ったばかりで、今日の最高気温はもう35度を迎えた。今年の夏は去年よりも暑すぎる。汗をかくのは当然だ。ファンデーションも汗で流れてそう。でも、直さなくていいや。40のおばさんがメイクを直したって、大して変わらないだろうし。 「汗拭いてくれば?」 誠がリュックの中からメンズ用の汗拭きシートを取り出した。 私よりも女子力が高い。今時の男子中学生は汗拭きシートを携帯しているのか。 「うん。じゃあ、もらおうかな」 汗拭きシートでゴシゴシとカットソーの中を拭くと、「ここで拭くな」って叱られた。 「いいじゃない。誰も見てないわよ」 誠がため息をつく。 「信じらんない。お母さん、一応、女だろ?」 「一応って何よ。ちゃんと女性です」 「水野さん」 受付奥の事務所からスーツ姿のスラリと背の高い男性が出て来た。 初めて見る顔……。
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